第7話 モンスター娘との夜と朝

<<ケイティvsジーク>>


そこは、馬車の車体を利用して張られたテント幕の中。一度に十人くらいが雑魚寝できるスペースがある。

今、そこの中心に2人の男女がおり、その周りに見物人が数名ほどいた。


中心の男女のうちの女性の方は、全身紫の肌で、細い尻尾が生えていた。


その女性は、縛り上げた男性に跨がっており、「さあて、この変態スキル、何回できるのか確かめてやる」と言った。


「よせ! せめて、ちゃんとしたい。その、ちゃんと……」と、下にいる男性が言った。


跨がる女性は、「童貞なんざ、これで十分」と言って、己が生やす、細く先がアンカーハート型に尖った尻尾しっぽでホールの入り口を刺激する。


「う、うぐぉ?」


「夜は長いぜぇ」


2人の戦いが、今始まる。



◇◇◇


俺は、アンモナイト娘のピーカブーさんに連れられて、川縁まで来ていた。


野営テントの方で、時々歓声が上がっているが、おそらくケイティが何かやっているのだろう。盛大に盛り上がっている。何か賭け事でもしているのだろうか。

まあ、俺は、ピーカブーさんと二次会かな?


夜の清流を眺めながら、細身の美人と酸っぱい柑橘系の果汁入りのお酒を嗜むのもいいもんだ。

適当な大きめの石に座る。

何故だが、ここが異世界だという不安が吹き飛ぶ。そういえば、残してきた仕事はどうなっているのだろう。いや、あれからまだ1日も経っていない。直ちに影響はないのだろうが……もう、残して来た仕事なんて、どうでも良くなってきた。


ピーカブーさんは「何考えてんのぉ?」と言って、俺の顔を覗いてくる。


この人はプライベートゾーンが狭い人だ。顔が近い。


「色々と。いきなりこんなとこに来てしまって、考えることが沢山ある」と、答えておいた。


ピーカブーさんは、「ふうん。あなた、異世界……から来たんでしょ」と言った。


ちょっとびっくりする。


「異世界……から来たとして? それはどういうことなんだろう」と、自分でもよく分からない質問を返す。


「かつて、そういう存在がいた」と、ピーカブーさん。


「いたんだ。転移者。それは転生ではなく?」


「ここではないどこかの世界から迷い込んだ男。何をしても、何を言っても馴染まない、まるで世界から孤立しているような男がいた」と、ピーカブーさん。話がかみ合っていない気がしたが、彼女もお酒に酔っている。きっと、今はそういう気分なんだろう。


「その男は、何者だったんだろうね」


「魔王」


「魔王、ね。俺が魔王に似ていると?」


「知らない。会ったことない」


「じゃあ何故?」


「そう思ったから。気付かない?」


「何だろう。分からない」


「あなたには、言語理解系のスキルがない」


「ないね……そういえば、なんで皆と会話ができるんだろう」


ケイティには、そういうスキルがあった。だが、俺にはない。


「あなたはおそらく、特別な存在。高位の何かの意思を感じる。だから……」


ピーカブーさんは、そう言って、貝の中からにゅうっと身を乗り出す。貝の中に隠れていた彼女の裸体が姿を現し、俺の首に両腕を回す。


そして、にこりと微笑み、俺を真正面から抱きしめる。とても優しく、だけど情熱的に。


彼女の小さな乳房が、俺の胸に押しつけられる。


どうしよう。俺、ここでこの子とこういうことしていいのだろうか。


この人の年齢は不明だ。少女の様でもあり、底知れない雰囲気も持ち合わせている。


だけど、何とも言えない包容力がある。この子、体は細いのに、貝はとても立派なのだ。体高2m以上はあるし、とても分厚く、重厚だ。


ピーカブーさんは、「脱いで。中に入ってきて」と言った。


いや、中にって、巻貝の中ってこと? どうやって貝の中に入るんだ?

などと思っていたら、普段、彼女が歩くときに使っている触手が貝の中から大量に出てきて、俺の服を脱がしにかかる。靴下で少し手間取ったが、綺麗にムかれる。


「足を乗せて」


俺は、現実ではないような雰囲気になり、言われるがまま、足を貝の蓋の上に乗せる。


上半身は抱きしめられているから、俺の体は、足先から貝の中にするんと入ってしまう。

貝の中は粘液でヌルヌルしているから、殆ど何の抵抗もなく入ってしまった。


そのまま、巻貝の蓋がばくんと閉じる。完全に真っ暗な貝の中で、ピーカブーさんと2人になる。


暗闇の中、僅かに彼女の吐息が聞こえる。そして、温かい。とても居心地がいい。


「ねえ、しよう? いいんだよ? もう堅くなってるし」


貝の中は、ヌルヌルでとても気持ちが良かった。何より安心感がある。何故だろうか。殆ど身動きが取れないはずなのに、全く狭所の恐怖は抱かない。


「ねえ、早く。きて」


俺の脳はすでにそのモードだ。ここは異世界、既婚者という貞操観念があるにはあるが、酔った頭と目の前の快楽で、そんなもの無力だ。そもそも世界が違うのだ、不貞がどうとか、もはやどうでも……


とはいえ、ここで一つ問題がある。


アンモナイト娘とのやり方が分からない。貝の中は真っ暗だし、周りはヌルヌル。あたたかく柔らかいものはあるが、どこがどこだか全く分からないのだ。


俺は、仕方がないのでしばらくもぞもぞと動いてみるが、やっぱり、やり方が分からない。


「まさかあなたも童貞? そうなんだ。私も初めて。でも、やり方は知ってる」


彼女はそう言って、少しだけ自分からもぞもぞと動く。


……その瞬間、何も考えられなくなった。


圧倒的な快楽の中、意識が沈んでいく。快楽で……快楽で脳が溶けそうだ。


「ああ、やっぱり……あなたは普通のヒトでは無い。。しかも、海の眷属。おそらく、海底の覇者……」


そんな小さな呟きが、聞こえた気がした。



◇◇◇

<<ケイティvsジーク 第12ラウンド>>


暗闇の中、何かが擦れる音が響く。


そして……


「うっぉおおお」


「よしよし良い子だ。結構いったな」


「ジーク、あの変態スキル、やっぱり本物?」と、暗闇の中の誰かが言った。


「少なくとも、刺激すればいくらでも立つし、出るな」と、ジークが返す。


「他の機能も試してみてよ」


「お前は見たいだけだろうが。もう一人の男はどうなった?」


「ピーカブーが食べちゃった」


「そうか。こいつも、そろそろ楽にしてやっか」


「う、うぐぐ。お前達、まさか……」と、何かに縛られている人物が言った。


暗闇の中、その人物にジークが覆い被さる。


「じゃあ、いただきます……」


「うっぐぉおおお」


「……ああ、これは、まあ、あれだな。簡単にレジストできる。スキルってやつは、持っているだけでは駄目だ。訓練しないとな」


「あらら。ジークさんがよがり狂う姿、見たかったなぁ」


「ばか。でもよ。少しレジストを弱めれば、そこそこ楽しめるな。まあ、童貞卒業おめでとう。俺を、忘れられなくしてやんよ。……」


暗闇の中、見学人達に観察されながら、男女の荒い息深いが聞こえ続けた。



◇◇◇


冷たい。冷たいと思う。


そして、目が覚める。俺は、眠っていたようだ。


昨日はあの後どうなったのか。そして、今はどういう状況なのか。体が全く動かせない。いや、動かそうと思うとぬるぬるして多少は動くのだが、何か柔らかいものが密着していて身動きが取れない。


頑張って目を開けると、目の前に人がいた。大きく目を開けている。


「あの……」


この人は、ピーカブーさんだ。俺は結局、彼女の貝の中で眠ったようだ。あの強烈な快楽で気絶したんだと思う。


声を掛けるも反応がない。目は開いているのに。密着している彼女の胸からは、心臓の鼓動が感じられる。死んではいないはずだ。

まさか、目を開けたまま寝る人なのだろうか。この中は粘液まみれだから、目が乾燥することもないだろうし、きっとそうだ。


そう思っていると、冷たさの正体が分かった。

貝の中に水が入ってきている。

まさか、川の中に入ったのだろうか。


水がドンドンと入ってくる。まずい、このままでは水没する。


だが、何故か不思議な感覚がした。水が入ってきても大丈夫なような気がしたのだ。


そのまま貝の中でじっとしておく。


……完全に水没したはずなのに、息が出来る。目もよく見える。感覚が研ぎ澄まされる。遠くの音も良く聞こえている。


「やっぱり」


目の前からそんな声がした。


「ピーカブーさん?」


「うん。起きた。これは日課」


日課? 朝風呂的な何かだろうか。

いや、トイレかもしれない。


「ここは水中?」


「うん。やっぱり、あなたの体は、水中でも適応できる」と、ピーカブーさんが言った


まじかぁ。俺は、普通じゃなくなっていた。ただの異世界転移ではなかったのか。


「起きよっか。あなたに貝殻はないから、出て服を着ないと」


そうだった。今の俺は全裸だ。俺は、暖かい貝の中からズルリと水中に出る。一気に全身が冷たい水に接して少し寒い気がしたが、堪えられる程度だ。


川の中を泳ぐ魚が見える。口の中、いや、肺の中に水が入っている気がする。ばい菌とか寄生虫とか大丈夫なんだろうか。まあ、考えても仕方が無い。


俺は、川の水で粘液を落としながら、服を探すべく川縁まで泳いでいった。



・・・・


陸に戻ると、朝餉の準備なのか、湯気が立ち上っていた。その中に、見知ったおっさんがいた。


「おはよう」と、ケイティに言った。こいつは、すでに七三分けを整えている。


「おはようございます。どうされました? ずぶ濡れですけど」と、ケイティが言った。


「いや、川で体を洗ったはいいけど、タオルがなかった」


「私の生活魔術を試してみましょう。先ほど、魔術の使い方なんかを習っていたんです」と、ケイティ。


「へぇ。じゃあお願い」


ケイティは、「おほん」と咳払いをした後、「クリーン」と唱えた。


俺の体の周りに光がぱっと纏わり付くと、水気や砂や泥などを飛ばしてくれる。


「おお、殆ど乾いたな。これは便利だ」


「でしょう? 生活魔術はやっぱり基本ですよ。異世界転移の」と、ケイティ。少し疲れている感じだが、どこか吹っ切れたような感じがする。


「確かに。俺も何かスキル覚えようかな。ところでさ、昨晩どうだった?」


ケイティは、「え? ええ、はあ、まあ、はい」と言った。はにかむような笑みを浮べて。


「うむ。おめでとう。卒業したのか」


「ええ。お陰様で」と、ケイティが言った。嬉しそうだ。


その時、俺とケイティの横からジークが出てきて、「ああ、こいつな、ちゃんと俺で卒業したぜ。でもよ、別のとこ刺激しねぇと行けない体になっちまった。すまねぇな」と言った。


「な、何と罪なことを」


ケイティは、「いや、いいんですよ。今までの自分が嘘みたいです。まるで、世界が変わったようだ」と言った。とても澄んだ目をしている。


これが、40代で素人童貞を卒業した男の瞳か。


ジークはそのままスタスタと河原まで歩き、「さてぇ、みんな飯だぁ! 朝食ったら直ぐに出発だ。今日中に街に着くぞ」と言った。相変わらずの美巨乳とむっちりしたお尻。そして、お尻の間から生えている細長い尻尾。


昨晩、この男は、あの体のお世話になったのか。いいなぁ。俺もあの貝の中で安眠できたし、まあ、いっか。


こうして、平和な早朝が過ぎていく。異世界転移1日目は無事に過ごすことができたようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る