第5話 モンスター娘とスキル鑑定

「何だ? あれ」


川縁に丸くなっているのは、紛れもなく蜘蛛の造形。


一瞬置物かと思たっが、時々足が僅かに動いている。

その蜘蛛はいわゆる地蜘蛛みたいで、足が短く、胴体がずんぐりと丸っこい。


今は足を曲げて体を地面に付けており、くつろいでいらっしゃるようだ。


教頭は、崖下から目を離さず、「おそらくは、蜘蛛の魔物。荷馬車に繋がれて、大人しくしているところをみると、彼女達が使役しているんでしょう」と言った。


なるほど。よく見ると、その蜘蛛の体には、ロープが巻き付けてある。荷車を引かせているんだろう。


「蜘蛛馬車に、明らかに人では無い女性達か……」


体が紫色の女性の頭には、角が生えている。おっぱいをぷるんぷるんさせながら、頭を洗っている。


よく見ると、巨大なカタツムリがいる。いや、アンモナイトの様な感じの巻き貝だ。その巻き貝の出口から、女性の上半身がにゅ~と出ており、彼女は、おそらく歯磨きか何かをしている。


普通の人かと思っていた巨乳の女性も、実は牛のような角があるし、別の女性の下半身はライオンのようだ。また、水の上を褐色のぬらりとした物体が泳いでおり、最初ワニかと思ったが、水から上がった姿は女性そのもの。


「アレは、ケモノ娘……いや、モンスター娘ではないでしょうか」と、教頭が言った。


「モンスター娘……確かに。でも、どうすっかね」と答える。


教頭はモンスター娘達の水浴びから目を離さず、「ここは、様子見でしょう」と言った。


俺は、「まあ、それがいいかな。一体どんな連中なのかもわからんし」と言って、女性達の水浴びを凝視する。不思議と遠くがよく見える。視力が上がっているのかもしれない。


「はい。これが小説の定石なら、この辺で襲撃に遭ったりして、我々が助けに入ってファーストコンタクト、いや、ボーイミーツガールパターンでしょうか。そんなことが起こると思うのですが」と、教頭が訳の分からないことを言った。


「ふむ。しかし、結構みんな可愛い?」と言ってみる。本心だ。


「そうですね。可愛いし、美乳が多いですな」と教頭が応じる。


確かに。美乳が多い。巨乳、中乳、微乳がいるが、皆綺麗な形をしている気がする。


水辺で遊んでいる下半身ライオンと下半身馬のモンスター娘なんて、おっぱいをぷるんぷるんさせながら水を掛け合っているし。


エロいんだかエロく無いんだかよく分からなくなってきた。


教頭は、「虎穴に入らずんば虎子を得ず。ですが、今出て行ったら、単なるのぞき魔です。もう少ししてから自然に合流してみましょう」と言って、覗きを続ける。


俺はやれやれと思いながら、巨乳ライオン娘と美乳ウマ娘のじゃれあいを眺め続けた。



・・・


水辺で行水していたモンスター娘の一行は、今度は焚き火の準備や料理の下ごしらえを開始した。


おそらくここで野営をするんだろう。日もずいぶん傾いてきた。そろそろ夜だろう。


「さて、どうすんだ教頭」


「そうですね。彼女らは、おそらく女性だけの集団。武装はしているようですが、この世界はそれが普通なのかもしれません。そして、悪人には見えない」と教頭が言った。


武装……彼女らの巨大荷馬車の側面には、斧や槍が取り付けてある。直ぐに手に取ることが出来るようにだろう。


「俺が思うに、もう普通に挨拶に行ったらどうだ?」


教頭は、「そうですね。もう少し近づけたら、『鑑定』が届くのですが」と言った。


「鑑定?」


「ええ、私には、スキルが宿っています。そのうちの一つが『鑑定』です」と、教頭が言った。


ふむ。空想小説やゲームではなかなかの強スキル『鑑定』か。この世界は、スキルが存在している世界だったのか。


「そのうちの一つと言うことは、鑑定以外も持っていそうだな」


「それはご想像にお任せします。しかし、千尋藻さんはスキルを望まなかったのですか?」と、教頭が返す。


俺は身に覚えがなかったため、「望む? じゃあ、教頭先生は望んだからスキルが貰えたと」と言った。


「そうだと思います。あの時の記憶はドンドン薄れていっていますがね」と、教頭が言った。


「確かに、


日本の記憶ははっきりあるのに、そこからここに転移させられるまでの記憶が殆ど無い。


「ああ、ひょっとしたら、千尋藻さんは、鑑定を持っていないから、ご自分のスキルを知らないだけなのかもしれません。どうでしょう。私が鑑定してさしあげましょうか」と教頭。


ふむ。教頭は鑑定を持っているから、自分で自分に鑑定をかけるなりして自分のスキルを知っているが、俺は鑑定を持っていないからスキルに気付いていないだけと。それは一理ある。


だが、友人とはいえ、他人に自分の秘密を知られていいものなのだろうか。だが、己を知っていないと何も始まらない。

そもそも鑑定スキルが一般的だったら、隠していてもしょうがないし。


「じゃあ、少しお願いしてみようかな」と言った。


教頭は、「分かりました。では、千尋藻さんを鑑定してみましょう。この世界の鑑定は、かなりの魔力を消費するようなのです」と言って、集中する。


消費するのは魔力なのか。その不思議パワーは一体どうやって生み出されているのだろうか。


「う……うん? ええつと、いや、もう一度……」


教頭が独り言をぶつぶつ言い出した。


「なんで? まさか、いやあり得ない。そんなはずは、無い」


「あの、いや、教頭よ。一体何が見えた?」


「いえ、お名前と年齢は宴席でお聞きした通り。ですが、。ひょっとして、スキルというのは私だけのもの? いやしかし、私が神ではあるまいし。この世界のスキルの位置づけとは一体……」


教頭は、ぶつぶつ言いながらも、少し嬉しそうな気がした。その感情は、おそらく優越感だ。自分より下のものを見るときの感情だ。まあ、おっさんになってくると、そんな感情を持たれても別に悔しくはないけど。


能力が高い者は高い者なりに、色々と要求事項が多くなって、結局はかつかつになるのだ。そして疲れる。むしろ、仕事の消化能力が高い方が損をするのが日本のサラリーマン社会……まあ、ここはサラリーマン社会ではないのだけれど。


「いや、教頭、俺は別に気にせんし。それから、その鑑定で分かるのはスキルだけなのか?」


教頭は俺の方を向いて、「もちろんお名前と年齢も分かります、それから……あれ? はい?」と言った。相当狼狽えている。


「あの、なにかマズいものでも……」


例えば、この世界の鑑定くんが病気まで看破できる能力があるとして、俺に癌が見つかったとか?


「いや、そうではありません。千尋藻さん、何かの間違いかもしれませんが、よく聞いてください」と教頭が言った。真面目な表情だ。


「ええ、はい。まあ、どうぞ」


こういうことはサクッと聞くのがいい。迷っていたら、お腹が痛くなる。あ、そういえば、今気分はスッキりしている。きっと仕事から強制的に解放されたから、精神力が戻ってきたのだろう。


「あなたはおそらく、にんげんでは……「こんばんは」


一瞬で緊張が走る。


教頭の言葉を遮るは、異形の少女。アンモナイト娘? いや、ひょっとしてオウムガイだろうか。ぐるぐると巻いた美しい巨大な殻の入り口から、細い女性の肩から上が出ている。

貝の大きさは高さ2メートルくらいあるだろうか。かなり大きい。

彼女は、何も身に付けていない気がする。巻き貝の入り口の下半分からは、白い舌状の蓋が出ていて、彼女のおっぱいは、器用にそれに隠されていた。体付はきゃしゃな感じで、表面に粘液的なヌメヌメを纏っている。


だが、いつの間にここに? どうやって?


「弓兵が狙ってるよ」と、アンモナイト娘が言った。


弓兵? それは、本当だろうか……と思ったが、確かに、後ろや横に何かいるような気がした。

全く気がつかなかった。


「動かないなら、撃たない」と、アンモナイト娘が続けて言った。


「もともと我らに敵意はない。千尋藻さん、ここは、大人しく従いましょう」と、教頭が言った。


俺も、包囲されている中で何かをしようとは思わない。だから、「分かってる」と言った。


・・・・


アンモナイト娘に、巨大蜘蛛がいる荷馬車の前に連行される。拘束はされていないが、少し緊張してきた。


そしてそこには、様々なモンスター娘達がいた。

角が生えた超巨乳のマサカリ担いだヤツ。体が深い紫色のヤツ。胴体と4つ足部分がライオン的なヤツ。そいつは、本来ライオンの首があるところから、女性のおへそ辺りからの胴体が、両腕付きで生えている感じだった。


それに、剣を構えるクールビューティ……所々に黒い鎧の様な皮膚がある。彼女は何娘なんだろう。


荷馬車の影に、ちびっ子もいる。本当に子供なのか分からないけど。


「どうされるんだろ」と、何となく呟く。


教頭は俺の呟きに、「さて。ですが、殺すのなら、とっくにやっているでしょう」と返した。


教頭は、何故だか落ち着いているような気がする。そういえば、教頭のスキルをまだ聞いていない。俺の説明も途中だったし。


だが、考えが纏まらないうちに、モンスター娘達の前に到着する。

そして、頭に大きな丸い角のある全身紫色の女性が一歩前に出る。目付きが悪く、歯が大きくギザギザだが、美巨乳美人だ。お尻も良い形をしているが……お尻の付け根部分から、細い尻尾が出ている。彼女は、まさかデーモン娘?


紫の美巨乳美人は、「さて、お前達、俺たちを覗いていた理由と素性を明かして貰おうか」と言った。覗きバレテラ……


「覗いていたことは謝る。私達も単に用心していたんだ」と、教頭が言った。何故だか彼は余裕綽々しゃくしゃくだ。


紫巨乳は、「ふん、まあ、覗きはいいだろう。それで、お前達は何者だ」と言った。


え? 覗きはいいんだ。まあ、今の彼女の服装もかなり際どい。ホットパンツにキャミソールのような格好だ。むっちりした肉付きのいいお尻は、ホットパンツからはみ出ているし、キャミソール的な上着も、巨乳なので谷間が露わになっている。見られる分には寛容なのかもしれない。


教頭は、「私達は、日本人だ」と言った。それで意味は通じるのだろうか。


紫巨乳は、「ニホンジンだと? 知らない国だな。どこにある国だ」と、意外な返答をする。


「俺たちは道に迷っている。だからどこにあるかと言われると困るが、東の海の先だ。極東と呼ばれることもある」と、教頭が言った。


「ふん、俺たちが田舎者だと思って試してんのか? まあいい。これから街に出れば、直ぐに調べられるしな。じゃあ、名前を言いな」と、紫巨乳。


「私は、高橋ケイティ」と、教頭が言った。名前、ケイティなんだ。マジかよ……


皆の目線が俺に向く。名前を明かしたら隷従させられるとか、そんな魔術があったら嫌だなとか思いながら、「千尋藻城だ」と本名を名乗った。まあ、その時はその時だ。


俺達が名乗り終わると、紫美人が「そっか。俺はジーク。今回のキャラバンの責任者だ」と言った。


あっさりと名乗ったな。


「キャラバン?」と教頭が聞き返す。


「そうだ。俺達は、ここから南島の離島『タケノコ』に住んでいる。ちょくちょくとこうしてキャラバンを組んで出てくるのさ。交易や外交、そして情報収集のためにな」と、ジークが言った。


「そうか。それで、悪いんだが、私達を街まで送って貰えないだろうか。手伝いとか何だってやる。駄目なら、道を教えもらうだけでいい」と、教頭が言った。俺も期待の籠った目でジークを見る。このジークと名乗る女性、何故だが面倒見が良い気がする。


そして、モンスター娘達に囲まれての野営にキャラバン……まあ、なかなか楽しそうだ。


「ここから最寄りの街までは、後1日だ。面倒見てやれんこともない。恩を売っておくのもキャラバンの仕事だと思うことにしてやろう」と、紫巨乳のジークが言った。


「おお、ありがたい。見張りでも何でも言ってくれ」と、教頭。


「見張りは信用のおけるものに任せるさ。それに、条件がある」と、ジーク。


「何だ? 何でも言ってくれ」と、教頭。


「スキル鑑定させろ。まずはそれからだ」と、ジーク。


一理あると思った。武器は持っていなくても、スキルがあれば反撃されてしまうおそれがあるだろう。それならば、まずは相手のスキルを知りたいと思うことは合理的だ。というか、この世界では、スキルは一般的だったようだ。


「ぐっ……スキル鑑定……だと?」と、教頭が狼狽える。何かマズいスキルでも所有しているのだろうか。


「そうだ、スキル鑑定だ。別に特別なことじゃないはずだ。仕事するにも街に入るにもスキルは開示しないといけない。スキルはそいつの個性みたいなものだからな」と、ジークが言った。


嘘やはったりを言っているようには感じない。スキル鑑定というものが一般的に可能な世界なら、それは合理的なことだと思うからだ。情報を隠す者は信頼されないだろう。というか、俺はスキルがないらしいから、余裕だ。


そんなことを考えていると、馬車の中から透明のタッチパネルを持った人が出てきた。あのタッチパネルがスキル鑑定機なのだろうか。というか、彼女の腕は鱗で覆われ、鋭い爪が生えている。グレーの綺麗な髪をしている女性……その女性のお尻からは、大きな尻尾が生えていた。トカゲ娘?


「あ、あの、私は、その、街まで後1日なら、秘密は開示したくない」と、教頭。俺はさっさと開示して、モンスター娘達とバーベキュウしたいのだが?


「ん? 話を聞いていたのか? お前達の国では知らないが、ここではどんな街に入るのだって、下手するとお店の中に入るのだって、スキルを開示する必要があるんだ」と、ジーク。


「あら、この方、珍しいスキルを持っていますわ」と、グレー美人が言った。彼女は、本人の同意無く、勝手にスキル鑑定をしたようだ。鑑定されると、あの透明のパネルにスキルが表示されるらしい。


「なに? どれどれ……」と言って、ジークが透明のタッチパネルを見る。


教頭は顔を真っ青にさせている。

一体どうしたというのか。


「こ、これは……マ、マジカルチン……」


そこには、驚愕の事実が書かれていた。

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