壊れたオルゴール
米太郎
壊れたオルゴール
♪〜ジングルベール、 ジングルベール、鈴が鳴る〜♪
もうすぐクリスマスがやってくる。
小さい頃、クリスマスマーケットに連れて行ってもらった。
夜闇にキラキラ光る大きなクリスマスツリー。
クリスマスの音楽も流れていて、鈴の音も聞こえる。
とても、うきうきした気分だった。
「あっ! これほしい! かわいいサンタさんがのってる! おともなる!」
「同じようなもの、家に持ってるでしょ?」
「これがいい! ずっとたいせつにする!」
「しょうがないわね」
そう言って買ってもらったオルゴール。
いつからだろう、 壊れて動かなくなってしまった。
一番のお気に入りのおもちゃで、壊れてしまった時はいっぱい泣いた。
大人になるとそんなことも忘れて、ただの
年末へ向けての大掃除。
飾り棚に置いてあったオルゴールを見つけて、久しぶりに存在を思い出した。
「これ好きだったんだよねー」
「そうなんだ? けど壊れてるなら捨てちゃいなよ?」
「けどなあー」
壊れてても大切なものだった。子供の頃の思い出がいっぱい詰まっていた。
……それも昔の話か。
「明日ゴミの日だし、燃えるゴミで出せるみたいだよ?」
「そうだね、あっても邪魔だもんね」
オルゴールをゴミ袋に入れてしまった。
大人になるってこういうことだ。
物事の利害しか見なくなってしまう。
◇
夜寝ていると、 あの音が聞こえてきた。
♪〜ジングルベール、 ジングルベール、鈴が鳴る〜♪
――僕を大切に思ってくれてありがとう。
枕元にオルゴールがあった。
壊れていたはずのオルゴールの音とともに、 飾りのサンタさんが喋り出した。
――壊れてしまってごめんね。もう一緒に遊べないんだ。この家に引っ越してくる時も、僕は壊れていたのに、君は連れて来てくれた。
――とてもうれしかった。
――壊れてても、僕をそばに置いててくれてありがとう。
――今まで一緒に入れて楽しかった。きみのこと、だいすきだったよ。
◇
気付くと朝になっていた。
急いでゴミ袋の中からオルゴールを探して取り出した。
心なしか、サンタさんが笑っている気がした。私のたいせつなたからもの。
「やっぱりこれは捨てない」
「なんで?」
「壊れてても、わたしの宝物だから」
サンタさんは動いたりしない。
「ほら、よく見てよ!サンタさん可愛いでしょ? それだけで十分! 鳴らすと変な音になってるけど、そこも可愛いのー!」
「変なのー」
壊れたオルゴール 米太郎 @tahoshi
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