川上の者
私の身体には川が流れていて、そこには様々なものが川下へくだってゆく。
桃が流れたこともあれば、壊れた橋が流れたこともある。何も流れない時もある。たまに人が川上から流されてくると、私は決まって手を伸ばし岸に寄せた。さぞ感謝されるのかと思えば、大体の者が私に怒りを向けて、発狂するのだった。
何故だ。何故、私に手を伸ばした。そのまま見過ごしてくれれば良いものを、お前はわざわざ手を伸ばして、私を生き延びさせた。もううんざりだ。
と言って肩を波打たせ、私の胸で泣くのがお決まりだ。私はどうすれば良いのか、とんと見当つかなくて、おろおろしながら、ただただその頭を胸に抱くことしかできなかった。そうしてその人は縋るように私の胸に顔を埋めるのだった。
すまない。謝るとさらにその人は憤って、すまない、また続けて謝ると泣き崩れて、すまない、そう言って抱きしめると弱々しく私の胸を押し返した。
すまない。私には謝ることしかできない。目に入れたものを岸に寄せて謝ることしかできないのだ。お前の苦しみをお前ごと、川に流すことなどできなかった。
お前は私だ。私の苦しみだ。あの時誰にも抱きしめてもらえずにいた苦しみだ。諦めて流されようと決めた苦しみだ。そうして岸に寄せた苦しみだ。
今までもこれからも流されていた方が楽だったろう。しかし私はお前の手を取ってしまった。もう離すことなどできない。すまない。
……すまない。
これからもっと、苦しめることになる。
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