第38話 プロポーズ

「おおおおおおお!」


 キルオが埋まっている土の中から、にょきにょき生えて来た花は、一気に俺の身長と同じくらいにまで成長した。


「あああ! あなた!」


 ワービスが花に寄り添った。


 赤い花びらが四つ、その花びらに囲まれた雄しべは、天を衝いていた。

 緑色の茎は太くたくましい。


(豆柴のおしっこのせいか、それとも、キルオがワービスを守りたいという強い意志のせいか……)


 俺としては、後者であってほしい。

 豆柴が特殊なスキルを持っていたとしても、おしっこで何かが発現するとか、いやすぎる。



 俺はキルオが今回の仕事で稼いだ報酬である金貨一枚をワービスに渡す。


「ありがとうございます。何から何まで……」


「いえ、命を救ってもらったんです。当然のことをしたまでです」


 さて、そろそろ戻らなきゃな。


 ミーニャがいるあの宿に。


 俺は毎日あの宿に泊まり、ミーニャが禿げ頭旦那にいじめられてないか監視しなきゃならない。


 と言うとカッコいいんだけど……


 意外にあの旦那はミーニャをこき使うが暴力は振るっていない。

 ある意味、宿屋の看板娘であるミーニャに傷をつけることだけは避けている様だ。

 事実、ミーニャはよく見ると美少女だし、彼女目当ての客も多い。


 俺もその一人。


 ぶっちゃけて言うと、最大の目的は、やっぱミーニャに会いたいからだ。


 あわよくば、あの猫耳をもう一度、モフモフしたい。


 俺、ミーニャを救うとか言ってるけど、結局、不純だな。


「ワービスさん、俺、そろそろ帰ります」


「あ、はい。お世話になりました」


 ワービスは大きく頭を下げる。


「ただ、キルオさんがいなくなって、ワービスさん一人だと俺、ちょっと心配です。だから、俺、三日に一回は様子を見に来ますね」


「はい! ありがとうございます。でも、無理なさらないでくださいね」


 ワービスは笑顔で応える。

 愛する夫が死んだのに……

 こんなに強い心の人に、俺はなりたい。


「表通りで定食屋をやる夢、俺と一緒に叶えましょう!」


「え?」


 ワービスの目が点になる。


(あ、誤解させたかな?)


 どうやら、俺がプロポーズして来たと勘違いした様だな。

 旦那が死んだ直後に、その未亡人にアタックするとか、どんだけ無神経なヤツなんだよ。

 そんな風に思われてたの俺?

 今までの花の種のくだりとか、全部、プロポーズを成功させるための伏線とか思われてる?


「いや、いや、そう言う意味じゃなくて! ここって治安悪いでしょ。はやく表通りに引っ越して、キルオさんとの夢だった定食屋を始めるの、俺、お手伝いしますよ!」


「あ、そういうことだったんですね! ありがとうございます」


 ワービスがほっと溜息を突き、胸を撫で下ろしている。


 ……良かった。


 ……ってか、俺って、そんなにもてないんだ。

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通り魔に刺されて二度目の異世界転生!〜成長チートと水魔法でファンタジー世界で戦います!〜 うんこ @yonechanish

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