第38話 プロポーズ
「おおおおおおお!」
キルオが埋まっている土の中から、にょきにょき生えて来た花は、一気に俺の身長と同じくらいにまで成長した。
「あああ! あなた!」
ワービスが花に寄り添った。
赤い花びらが四つ、その花びらに囲まれた雄しべは、天を衝いていた。
緑色の茎は太くたくましい。
(豆柴のおしっこのせいか、それとも、キルオがワービスを守りたいという強い意志のせいか……)
俺としては、後者であってほしい。
豆柴が特殊なスキルを持っていたとしても、おしっこで何かが発現するとか、いやすぎる。
◆
俺はキルオが今回の仕事で稼いだ報酬である金貨一枚をワービスに渡す。
「ありがとうございます。何から何まで……」
「いえ、命を救ってもらったんです。当然のことをしたまでです」
さて、そろそろ戻らなきゃな。
ミーニャがいるあの宿に。
俺は毎日あの宿に泊まり、ミーニャが禿げ頭旦那にいじめられてないか監視しなきゃならない。
と言うとカッコいいんだけど……
意外にあの旦那はミーニャをこき使うが暴力は振るっていない。
ある意味、宿屋の看板娘であるミーニャに傷をつけることだけは避けている様だ。
事実、ミーニャはよく見ると美少女だし、彼女目当ての客も多い。
俺もその一人。
ぶっちゃけて言うと、最大の目的は、やっぱミーニャに会いたいからだ。
あわよくば、あの猫耳をもう一度、モフモフしたい。
俺、ミーニャを救うとか言ってるけど、結局、不純だな。
「ワービスさん、俺、そろそろ帰ります」
「あ、はい。お世話になりました」
ワービスは大きく頭を下げる。
「ただ、キルオさんがいなくなって、ワービスさん一人だと俺、ちょっと心配です。だから、俺、三日に一回は様子を見に来ますね」
「はい! ありがとうございます。でも、無理なさらないでくださいね」
ワービスは笑顔で応える。
愛する夫が死んだのに……
こんなに強い心の人に、俺はなりたい。
「表通りで定食屋をやる夢、俺と一緒に叶えましょう!」
「え?」
ワービスの目が点になる。
(あ、誤解させたかな?)
どうやら、俺がプロポーズして来たと勘違いした様だな。
旦那が死んだ直後に、その未亡人にアタックするとか、どんだけ無神経なヤツなんだよ。
そんな風に思われてたの俺?
今までの花の種のくだりとか、全部、プロポーズを成功させるための伏線とか思われてる?
「いや、いや、そう言う意味じゃなくて! ここって治安悪いでしょ。はやく表通りに引っ越して、キルオさんとの夢だった定食屋を始めるの、俺、お手伝いしますよ!」
「あ、そういうことだったんですね! ありがとうございます」
ワービスがほっと溜息を突き、胸を撫で下ろしている。
……良かった。
……ってか、俺って、そんなにもてないんだ。
通り魔に刺されて二度目の異世界転生!〜成長チートと水魔法でファンタジー世界で戦います!〜 うんこ @yonechanish
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