第37話 肥料
日が暮れ始めた。
「こうしてあの人と、夕日を眺めるのが好きだったんです」
ワービスの声が頭上から降って来る。
俺はその声で、我に返る。
俺は穴を掘り続けていた。
そう、ディグダグの様に。
「よっと」
穴から地上に出る。
黒い建物の間から微かに差す橙色の光。
それが、ワービスとキルオと豆柴を照らしていた。
「出来ましたよ。ワービスさん」
夕日の光に白く縁取られた、美しき未亡人に声を掛ける。
「はい」
「ワン!」
ワービスと豆柴が俺に振り返る。
「まぁ、立派な墓穴ですね。これだけ広々としてたら、キルオもゆっくり眠れそう」
俺が無心で掘った穴を覗き込み感激するワービス。
「ワービスさん、足持ってください。俺は頭の方を持ちます」
「はい!」
二人でキルオの死体を持ち上げ、そっと墓穴に横たわらせる。
「じゃ、あなた……。またね」
ワービスは笑顔だった。
だが、その目には涙が浮かんでいた。
「それじゃ……」
俺は木のスコップで、キルオに土を掛ける。
「ワンワンワン!」
「豆柴も手伝ってくれるのか?」
「ワン!」
元気よく返事をし、小さい後ろ足をばたつかせ、キルオに土を掛ける。
「よし。出来た」
「あなた……」
ワービスがキルオの墓の前に膝まづいた。
「最後に、これを」
俺は袋から花の種を取り出し、墓の上に蒔いた。
「キルオさんは花になって、あなたを見守るでしょう」
コル村の長老から貰った花の種。
春になればきっと、綺麗な花をつけ、ワービスを少しでも癒してくれるだろう。
「ああ! 早く綺麗な花が咲くのが楽しみです! 待ちきれないわ!」
ワービスは俺の手を取り、目を輝かせた。
「わんわんわん!」
「どうした? 豆柴。……って、あ!」
チチチチチチ……
豆柴は片足を上げ、舌を垂らし、恍惚の表情を浮かべていた。
豆柴の親指くらいの大きさの、おちんちん。
そこから、放物線を描き、おしっこがキルオの墓に降り注ぐ。
「あら、まぁ!」
「こら! お前! 何してるんだ!」
目を丸くするワービスと、怒る俺。
「ワゥン……」
スッキリした顔の豆柴。
「バカ!」
俺は豆柴の頭を拳でポカリ。
「ワウ!」
不服そうに鳴く豆柴。
あのな!
逆切れすんじゃねーよ。
俺の命の恩人におしっこするんじゃねぇ!
「あ、見てください!」
ワービスの声に振り返る。
「あ!」
何と地面からにょきにょきと真っ赤な花が咲き始めた。
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