第35話 スラム

 ギルドを出て、カンポの街を俺は歩く。

 アイリスが羊皮紙に描いてくれた地図を見ながら、目的の場所へ。


 周りの人の奇異の視線が、俺と俺に背負われているキルオの死体に注がれる。


(ハッキリ言って、しんどい……)


 早く目的の場所に辿り着きたい。


「ここで曲がるか……」


 大通りから奥まった路地に足を踏み入れる。

 スラム街だ。

 ボロボロの建物がひしめき合い、足の踏み場も無いほどゴミが転がっている。


「ぎゃっ!」


「あ! ごめんなさい」


 ゴミかと思って踏んだものは、ボロボロの服を着たおじさんだった。


「気を付けろ!」


「はいっ!」


 表通りは賑やかで治安のいい表通りとは対照的な、この裏通り。

 観光客が何も知らずに迷い込んだら最後、良くて身ぐるみはがされて放置されるか、運が悪ければ死体として放置される。


「キルオさんの住所は、えっと……」


 そんな場所にキルオは奥さんと住んでいた。


 一回目の俺の冒険では、魔王の侵略によりこの世界は貧困にあえいでいた。

 魔王軍と戦うために、王都を守るため多額の税金が徴収された。

 そのせいで街や村は、このスラム街の様になっていた。


 そして、俺が転生し、アオイとして魔王を倒した。


 そして、世界は平和になり、人々は思い税金を払う必要がなくなった。

 街や村が自分達のために金を使うことができて、全ての人々が幸福になったのを見届け、俺は現世に戻った。


 ここまでが一回目。


 そして、二回目。


 どうやらこの世界は、金持ちと貧乏人に分かれてしまっている様だ。


 ここまで来ると、死体を背負っている俺のことなど誰も気にしなくなった。

 ここの住人は死体など見慣れているからだろう。


「クゥ~ン、クゥ~ン」


 ちょこちょこと俺の横を歩く豆柴が不安そうに鳴いてる。

 俺は豆柴に笑顔を送り、


「よしよし。もうすぐで着くからな」


 そう言って顔を上げると……


「あった!」


 不揃いの板を組み合わせて無理やり作られた、ボロボロのあばら家。

 目印の枯れた井戸もある。

 黒々とした建物に囲まれたそのあばら家は、雑草の上に直接建てられていた。

 微かに白い陽の光が差し、そこが不思議と美しく感じた。


「廃墟が美しいって思うのと一緒かな」


 朽ちた遊園地やホテルの写真を観て退廃的な美しさを感じるのと一緒か。


 だが、廃墟は失礼だな。


 だって、このあばら家には人が住んでいるんだから。


 腐りかけた木の扉の前に立つ。


「フンフンフ~ン♬」


 ご機嫌な鼻歌が聴こえて来る。

 ちょっと鼻にかかっていてアニメの様に甲高い。


 俺は気が滅入った。


 亭主の帰りを楽しみに待つ奥さんを思うと……


「あの、すいません」


 俺は扉の向こうの女性に呼び掛ける。

 鼻歌が止む。


「……はい」


 この声の主が、キルオの奥さんなのだろう。


 俺はこの奥さんの


「あの……キルオさんのことで。俺、一緒にギルドで仕事してたアオイっていいます」


「はい」


 ドアが開いた。


 悲しむ顔は見たくない。

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