第34話 キルオを運ぶ理由

「あ、あ、あ、アオイさん、一体どうしたんですか!?」


 赤毛のポニーテルを揺らしながら、ギルドの受付嬢アイリスは目を白黒させている。

 そりゃそうだ。

 俺は今、頭がぐしゃぐしゃに潰れた死体を背負い、ギルドの受付にいんだから。

 その俺自身も血にまみれている。

 驚くなって言う方が、どうかしている。


「おいおい」

「頭が無いぞ」


 俺が背負っている頭の無い死体。


 キルオを気安く指差すんじゃねぇ!


 ま、無理もねぇか。


 普通、モンスターと戦いで死んだ者の死体は、その場で埋められるか、教会に持ち込まれるかどちらかだ。


 俺みたいに死体をギルドに持ち込むなんて行為は、前代未聞だろう。


 ……っていうか、ここに来るまでの間、人々が俺に奇異の視線を投げて来た。

 中には、俺が背負ってる仏に、拝んでる奴までいた。

 門番には尋問されるし、ここまで来るのに苦労した。


 そうまでするのには、理由がある。


 俺には苦労してキルオを運ぶ--

 それだけの理由がある。


 まず、その一つ。


「兎に角、まず、俺とキルオの報酬をくれ」


「あ、はっ、はい!」


 俺が凄むと、アイリスは肩をビクつかせながら、金庫から金を持って来た。


「どうぞ……」


 今回のクエスト『Fランク:コル村の草むしり』の報酬は、金貨一枚だった。

 俺とキルオ二人で一枚ずつだから、金貨二枚……

 

 とりあえず、まず一つ目の理由は達成できた。


 だが、


 こんな……

 こんな……はした金が原因で、キルオは死んでしまった。


「あの、背中に背負っているのはキルオさんなんですよね?」


「ああ」


 顔が無いので、疑われるかと思ったが、アイリスは納得してくれた様だ。


「私もだてに長年、受付をやってるわけじゃありませんから。身体の特徴だけでも誰か分かります」


 そういえば……現世の頃、首から上を隠して、下半身の一物の特徴から自分の彼をを当てるというアダルトビデオを観たことがある。


 ……って、俺はそんなアブノーマルな性癖持ってないから!


 友達が無理やり貸してくれたDVDを、付き合いで観ただけだから!


「どうしたんですか?」


「い、いや……」


 俺はパニくっているんだ。

 だから、現世のくだらないことを思い出して気を紛らわそうとしているんだ。


「一緒にクエストをこなしていた人が不慮の事故で無くなったのは、ショックですよね……」


 アイリスは俺を落ち着かせようと、一生懸命慰めの言葉を掛けてくれる。

 それは、ただ単にギルドの受付嬢という職務を越えた優しさを感じた。


 優しさが俺の心を癒してくれる。


 涙が出そうになる。


 一回目の時も沢山仲間が死んだ。


 やっぱり、自分が仲間だと思った人間が死ぬのは、いつだって悲しいし辛い。


「アオイさん、大丈夫ですか?」


「ああ……」


 アイリスは何も言わなかった。


「じゃ、事情は後で話しに来るよ」


「あっ……はい……」


 アイリスは俺を止めなかった。


 俺はもう一つ、キルオを運ぶ理由がある。


 それを果たすためにギルドを出た。


 

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