第33話 花の種

 俺は倒れたサイクロプスから金貨100枚を奪った。


(キルオさんが犠牲になったのに、たった金貨100枚とは……)


 報酬としては大きい方だ。

 だが、犠牲が大き過ぎた。

 犠牲と報酬が釣り合わない。

 全般的に、一回目の時と比べてモンスターがドロップする素材も金も少ない。


「ああ、なんてこった」


 まるで潰れたトマトだ。

 キルオの頭はサイクロプスの攻撃で潰れたトマトみたいで、原形をとどめていなかった。

 救いがあるとすれば、身体が無事だったことぐらいか。


「よっと」


 俺は、その身体をおんぶした。

 まだ温かいキルオの血が俺の背中をつたう。


「ワウウウン」


 豆柴の黒目が潤んでいる。


 そうかい。


 お前も悲しいかい。


 俺もだよ。


 魔王は絶対倒さなきゃな!


 俺は決意を新たにする。


「あの、ありがとうございました」


 お礼の言葉に振り返ると、村長と村人達がいた。


「ああ……」


 この人たちはいつの間に戻って来たのか。

 戦いもせずどこかに隠れていたのだろう。

 だが、俺は責める気も無い。

 この人たちが一斉に頑張ったとしても、あれだけのゴブリンと、最後に現れたサイクロプスを倒すことは無理だったろう。

 犠牲が増えただけだ。


「草むしりだけでなく、村を救ってくれてありがとうございます。あの、これを……」


 村長は手にした袋を、俺に渡した。


じゃらり……


 どうやら金の様だ。


「金貨50枚あります。村の者達から集めました。これが我々精一杯のお礼ですじゃ」


「いや、これは受け取れません」


 領主に払う税金だってあるだろう。


 村にとって負担になる。


 俺は断ろうとした。


「受け取ってください! あなたのお陰で命が助かったのですから!」


「いや、いいって。この金が無くなったら、あんたら飢え死にするだろ? 見たとこ土地も貧弱で貧しい村だろうし、この金はあんたらが生きるために使ってよ。無一文になって死んだら、それこそ、俺が背負っている男が天国で無念だろうからさ」


 村長は俺の説得に応じた。


 俺は一つ思い付いた。


「あ、代わりにさ、花の種をくれないか?」


「え? そんなもので?」


「うん。この村は綺麗な花が咲いてるからさ。あんたらが育てたんだろ」


 俺は花の種を分けてもらった。

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