第31話 現世
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
美麗は人目をはばからずに泣きじゃくった。
彼女の目の前には意識を手放したままの蒼の横たわった姿がそこにある。
「起きてよ! また抱っこしてよ!」
包帯で覆われた蒼の胸板に美麗は顔をうずめた。
ツヤツヤの黒いツインテールが蒼の顔に覆い被さる。
ガチャ。
医者と共に両親が病室に入って来た。
「美麗」
「ママ! パパ!」
美麗は涙でグシャグシャの顔を上げ、母親に飛びついた。
「わーん! わーん!」
「よしよし」
泣きじゃくる娘の頭を撫でる母。
「あの、先生、やはり蒼はもう……」
父親が眉間に皺をよせ、医者に問い掛ける。
「はい。一命はとりとめましたが、意識は戻ることは無いでしょう」
「そんな……」
ショッピングモールで美麗と買い物中だった蒼。
彼は無敵の人から美麗を守るために、その凶刃に倒れた。
その傷は頭部と胸に数か所もあった。
抵抗できない彼を無敵の人はめった刺しにした。
周りの人は恐れをなし、助けようとすることは出来なかった。
蒼を助けたのは、突如起きた、大地震だった。
あの大地震から数年も経っているのに、この地ではまだ余震が続いていた。
大き目な余震に驚いた無敵の人は尻餅を突き、その瞬間を駆け付けた警察官に取り押さえられた。
今、無敵の人は裁判中だった。
そして、蒼は意識を失ったまま今日に至る。
「お医者さん!」
「何だい? 美麗ちゃん?」
「私、何でもするから、お兄ちゃんを起こして!」
「う~ん」
白髭の医者は考え込んだ。
つづく
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