第29話 だがために

「ま、カオスポイントの件は、今は置いておこう」


 今は倒したゴブリンから金や素材を奪うのが先決だ。

 村は荒らされて気の毒だが、こちらにとっては想定外の収入だ。

 報酬の一部と思って頂かせてもらう。


 俺はゴブリンの死体から金や毛皮、武器などを収奪する。


「しっかし、疲れたぜ」


 HPの残りは十分ある。

 だが、疲れのせいで身体が重い。

 ステータスには現れない、疲労度がマックスに達している様だ。

 HPが体力の全てという訳ではないらしい。

 つまり、HPはモンスターと戦い怪我をすれば減る。

 そして、疲労度は身体を動かしたり寝不足になれば増える。

 一回目の時と同じだ。

 つまり、ほぼ現世と同じ体という訳だ。

 HPやMPなどの指標は生き残るために常にチェックすべきだが、疲労度は身体からのシグナルで分かる。


 つまり、俺は今、疲れていて、身体を動かすのが遅い。


 休憩するなり、宿屋に止まるなりしないと、通常モードにならない。


 この状態で強敵に襲われると、本来の力を発揮しづらい。


「よっと」


 高校生の俺が、おやじみたいに、掛け声をかけないと力を出すことが出来ないとは……

 残念だし情けない話だ。


「はっ、はっ……」


 息も絶え絶え、金を拾っていた。


「金、金……」


 俺は金が必要だった。


 ミーニャを助けたい。

 聖剣の錆びを取りたい。

 早く魔王を倒して美麗に会いたい。


 その時だ。


「ゴルアアアアアアアアアアアア!」


 叫び声に咄嗟に俺は反応した時は、もう遅かった。


 黒い影が俺を覆っていた。


 俺に向かって、棘棍棒を振りかざし、そして振り下ろして来たサイクロプスがそこにいた。

 一つ目の筋骨隆々の巨人。

 デカい。

 五メートルはある。

 それでも種族の中では中程度か。

 一回目の時、手こずった記憶がある。

 こんな強いモンスターがこんなところに現れるとは。


 うかつだった。


 疲労と金集めで頭がいっぱいだった。

 真ん中にある黒い巨大な目と目が合った。


(死ぬ!)


 俺は咄嗟に身を強張らせた。

 避けるには棘棍棒が頭上、数ミリ!


ドシュッ!





「あれ……? 死んでない?」


 俺は死んだと思ったのに。


 生きてる?


「ワンワン!」


 豆柴が俺の袖を引っ張る。


 やっと我に返る。


 視線がやけに低い。


 地面が目の前にある。


「倒れてる?」


 俺は倒れていた様だ。

 サイクロプスの棘棍棒に殴られて吹っ飛ばされた?


 いや、違う。


 巨人のバカ力で振り下ろされた棘棍棒に殴られたのなら、頭が吹っ飛ぶはずだ。


「あ……」


 嫌な予感がして、 視線を少し上に向ける。


「キルオさん!」


 俺の目の前で、頭を棘棍棒で勝ち割られ、血を間欠泉みたいに噴き出しているキルオがいた。


つづく

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