第26話 好きな人
「ごちそうさまでした!」
キルオの奥さんが作った弁当は本当においしく、俺はサクッとたいらげた。
水を飲みながら、草がむしり取られ、ぺんぺん草一本生えてない村を眺める。
仕事の達成感が目に見えてわかるというのは、モチベが上がる。
「いやぁ。こんなに綺麗に食べてくれたら嫁も喜ぶよ」
「奥さんのこと好きなんすね」
「ああ。魔王が滅んで平和になったから、結婚したんだが……」
だが?
「また魔王が復活してね。どうなるか心配だよ。僕は嫁を守るためには冒険者として力が弱い」
そうだった。
俺、魔王討伐のために二回目の転生したんだっけか。
魔王の奴、こんな小市民にいらん心配かけやがって。
俺が倒してやんよ!
「ところでハルト君は、いくつなんだい?」
「16っす」
「若いね」
「はい!」
「彼女は?」
「いないっす!」
キルオは愛妻弁当を食べながら俺に色々と質問して来る。
現世でバイトしたことあるが、初日からこれほど気さくに話し掛けて来る人も珍しい。(俺調べ)
「好きな人とかいるの?」
「いも……いや、あの、まだっす」
「そっかぁ」
思わず、妹の美麗のことを口走りそうになる。
ちょっと、キルオの顔が怪訝そうになってる。
確かに俺はシスコンを自認している。
だがっ--
広言したり周りに知られたくない!
変態と思われたくない。
だから、過剰反応とは思うが、俺はほぼ無意識に話を逸らそうとして、こう口走っていた。
「好きな人っつーか、助けたい人? 的な女性はいるんすよね」
「ほぅ」
キルオは目を丸くして、俺を覗き込む。
「ま、俺、そのために金貯めてるんすよ」
ミーニャのことを言おうか迷った。
だけど、キルオとはまだそこまで深い知り合いではないし、初日だし、今日だけ限定の関係かもしれないので……
「ちょっと、小便して来ます」
この話はもうそこまでにしておこう。
◆
そして、夕暮れ。
村は橙色に染められ、仕事も終わり。
「ほっ、ほっ、ほっ。これはこれは、綺麗になりましたな」
白髭の仙人みたいな村長が、俺らを労う。
「でしょ? そこにいるアオイ君が頑張ってくれたんですよ」
「ほほう」
村長が俺を見て目を細める。
「なかなか良い目をした若者じゃ」
「ありがとうございます」
俺は礼を言う。
そして、村を後にしようとしたその時……
「うわあああああ! モンスターが襲撃して来たぞぉお!」
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