第25話 愛妻弁当
「なっ! なにぃ!?」
驚くジャック。
無理も無い。
さっきまで目の前にいた俺が、急に消えたのだから。
「どこだ!? どこいきやがったぁ!?」
首を左右に振り俺を探すジャック。
「あ、兄貴! 後ろ!」
子分の馬面が親分であるジャックに声を掛ける。
「あい?」
間抜けな声を上げるジャック。
まるでドリフだ。
こいつ、ドリフの志村けんだ。
(けんさん……天国で元気にしてるかな)
俺がそう思っていると、振り返ったジャックが、
「わぉ!」
と俺を見てのけぞる。
まるで化け物と鉢合わせしたかのように。
失礼な。
人間だっつの。
「KOだ!」
ボコオオオオオン!
俺の突きが、ジャックの腹をえぐる。
「おぼおおおおおおお!」
みぞおちにヒットした俺の拳。
ジャックは息が詰まり、みぞおちを抑え床をのたうち回った。
「殺す訳には行かねぇからな。この辺にしとくか。さて、お前らは、どうすんの?」
馬面と豚面を交互に見て、意思を確認する。
「あわわわわ」
「おわわわわ」
うむ、戦意喪失。
なら、戦う必要なし。
「新人だからってなめんじゃぁねーぞ」
俺はそう言うと、草むしりに向かった。
◆
「アオイ君、こっちもよろしくね!」
「はいよ!」
俺は元気にリーダーに返事をする。
ここは王都から少し外れた場所にある、田舎村。
ギルドFランク冒険者の俺は、初のクエスト「草むしり」を受注。
この村の畑の周りや、民家に生えた雑草を、地道に草むしりしている。
「しかし、君、すごいね」
「はい! 鍛えてますから」
「にしても、一時間でこれだけってすごいよ」
優しそうな顔のリーダー(Eランク冒険者)は、俺が綺麗にした土地を見て、驚いている。
それもそのはず、俺がむしりつくした場所の面積は東京ドーム5個分。
さすがにレベル77ともなると、身体能力がすごい。
根がしっかりしたしぶとい雑草も、摘まむ様に引っこ抜くことが出来る。
俺の背後には引っこ抜かれたしなびた雑草の山が出来ていた。
「ちょっと、お昼にしようか!」
「はいっ!」
木陰でおベントを広げる。
「僕の奥さんが作ってくれた弁当なんだ」
「あざす!」
リーダーであるキルオ。
年は三十歳。
青白くて、痩せてて強そうじゃない。
でも、すごく優しそう。
最近、結婚したらしい。
「美味いっす! この卵焼き」
「ありがとう。嫁に伝えておくよ」
キルオ嬉しそうだ。
奥さんのことが大好きなんだな。
俺も結婚して、美味しい弁当作ってくれる奥さん欲しい。
(……ほんとは美麗と結婚したいけど……)
妹だから無理だよなぁ。
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