第35話 ボクちゃん 35 卒業式

ボクちゃん 35

卒業式



二月も過ぎ三月には入った。


この頃になると、一年の総まとめとして、教師達は次学年へとか、中学校へとかへの児童に対しての配慮を高める。


特に六年生は中学校へ行ってもやっていけるように、総まとめの段階を考えて児童の心情に気を配る。






そして次の行事は卒業式である。



またまた職員会議を持つ。


役割分担、各係を決めて話し合う。


ピアノの係、バック音楽の係、それぞれ話し合いながら、各教師が色々な案を練るのである。



この時はこうして、あの時はああして、この場面の時はこの歌をとか、、、様々に渡り式のイメージを創る。



幕、飾り、花、細かいところまで考えて構想を練る。



卒業式の成功を考えての意思統一を図るのである。






六年生の児童も、小学校生活最後の行事ということで、少し緊張気味になって練習する。




他の学年も、お兄さん、お姉さんのご卒業をお祝いしつつ、支援する。





三、四年生を見ると、お世話になったことを思い出しているような姿も伺える。



とにかく、六年生としては最後の行事である。



また、一年でも最後の行事である。



児童、教師共々力を出しあって練習に励む。






そうしながら、当日の卒業式を向かえる。



厳粛なムードが講堂内に流れている。



整然とした空気とともに椅子が並べられている。


卒業生の椅子、在校生の椅子、来賓、教師、保護者のそれぞれの椅子、、、、


ものの見事に、まるで時間が静止したかのように並べられている。




人々みんなが経験ずみの椅子の配列である。



正面の舞台の右側には、お祝いの松と花が色を染めている。



そして、全員が少しの不安を抱きつつ、式が始まる。




式次第により、卒業生のひとりひとりの名前が告げられる。





時にはあまりもの緊張で、気絶して倒れた女子児童も、過去には数人いたと聞いている。



歌詞のせいなのか、女子児童には涙を流す姿も見受けられる。


別れのさびしさのせいなのか、


六年間の思い出が胸に募るのか、、、



またまた僕の小学校時代を思い出した。



確かに女子児童は卒業式にはよく泣いていた。



卒業式の時、涙を流している女の子の側にいた僕は、、こんな嬉しい式の日に何故泣くんだろう、、、と、幼心ながらそんなことを思ったことを記憶している。




とにかく講堂内は、張りつめた空気が静かに流れている。




そして、クライマックスへと達していく。



男子児童のその姿には、凛々しい雰囲気も漂っている。



修業を終えて、これから羽ばたこうとする飛翔の姿勢さえも見えている。




教頭先生の司会て進められて、卒業式は山場を越えて終了間際となった。



全式次第が時間とともに経過して終わろうとしている。



最後の父兄の謝辞などは、涙、涙の物語である。


僕も少し感動して涙が浮かんでくる。



もともと僕は、もらい泣きの癖がある。



女子児童の涙顔を見ると、目頭が熱くなって、少し涙が出てくる。



その涙を見せないようにと、眼鏡をかけて隠していた。





式が終わり、全員がホッとして、安心感を覚えた。



そして、一同礼をして児童は講堂から運動場へと足を向ける。




そして別れにふさわしい曲が運動場に流れてくる。



六年生は父兄とともに、二列になって学校から別れを告げていく。



女の子の顔を見ると、先ほどの涙が嘘のように消えて、満面の笑みを浮かべている。



やはり、ここでも女の子の不思議さを感じざるを得なかった。


「中学校へ行ってもがんばれよ」


先生方の励ましの言葉が飛ぶ。



そうして卒業式も終わった。



ここで僕はわかったことがある。


いくら人のことを、あれこれと詮索しても仕方がないけれども、わかったことがある。


例のカマ男先生の正体である。


今までこのカマ男先生には随分と苛まされてきたが、やっと本性をつきとめた。


正体は何かというとスカタンなのである。


指導力はあるにせよ、どう考えても、どう思ってもスカタンなのである。



今まで真剣に考えてきてバカを見た。







山岡先生の離任式の日が来た。


山岡先生は演台に上がってみんなの前で語った。


「僕は教育ていう職業に就いて、この道に徹して今日まで来た。過去には様々なことがあった。語り尽くせば切りがないが、、、」



「今まで言い表せないほどの出来事が頭のなかに集積されている。印象に残ったことは数えきれないほどあるが、、、」


言葉が少し途切れ途切れになっている。



目も少し涙で潤んでいる。


横から見ていた僕は山岡先生の情感を感じた。



「教職について、、、」やはり涙が出てきたのであろう。言葉が出ない。



暫く沈黙の状態が続いた。


しかしながらさすがに年の功、気持ちを取り戻して話し出した。

「君たちがいたから僕がいたんだ。君たちがいたからこそ僕がいたんだ。、、、君たちには未来がある。前途洋々な未来が待っている、、、決してどんなことにも屈しないで、、決して何事にもくじけないでください。」


感慨無量の山岡先生の言葉を聞いて子供たちもなみだぐんでいる。


すすり泣きの声も聞こえてくる。


堂内は整然とした空気が漂った。



延々と二十分ほどは語っただろうか、、、




最後に「みなさん、お元気で、勉強にスポーツに、いろいろなことに頑張ってください、さようなら」と別れを告げて、離任の挨拶は終わった。




ごくろうさんでした。僕は内心呟いた。



会うは別れの初めなり、思いやり、情をかけても別れがくる、良しにつけ、悪しきにつけ、教師の姿は残っている。


いついつまでも残してほしい教師の姿、過ぎてみればさびしくなる、別れを感じて泣けてくる。



過ぎ去った過去の情景がまざまざと甦り、涙が募りあふれでてくる。


止めどなく涙が流れて身震いするほどの別れのつらさを感じる。


消そうとしても消しようのない懐かしい過去が脳裏に残像している。



今に感じるこの一瞬、今に感じるこの瞬間、


ああこの玄関、この廊下、ああこの庭園、この運動場、ああなんと、、、、


過ぎ去りし今日の日よさらば、、、、過ぎ去りし過去の日よさらば、、、さらばわが校舎、、、さらばみなさん、、、





このような内容のことを山岡先生は語った。












そして一年が過ぎ去ろうとしている。







教室の窓の外を見ると、校門の側にある桜の花が咲き始めている。



山の緑も新鮮さが見えているようにも見える。



一年が過ぎた、二年目に向かおうとしている。



次年度のことを考えて計画を立てた。



もう春休みである。






時の流れの速さには、言葉では言い表せないものがある。





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ボクちゃん 中村繁一(佐々木次郎) @sige24

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