第28話 ボクちゃん 28 夏休み
ボクちゃん 28
夏休み
そうして何とか夏休みを迎えた。
お盆が来て、久しぶりに郷里へ帰った。
そして、親父とともに酒を飲んだ。
親父はこう言った。
「人間関係ができればやっていける」
「その時直ちに処理すべし」
どうも親父の言うことは、いなつも抽象的で、理解できないところがある。
いつも、酒を飲んだ上での対話だったからだろうか、、、
母親も元気に暮らしていた。
我が家のことを話してもつまらないが、、、家族揃ってのお盆は楽しいものだった。
親父はよく酒を飲んだ。
もともと酒飲みである。
所謂酒豪だった。
ぞくに言う一升酒である。
酒を飲んで、僕をテーブルの前に座らせて、よく論を重ねたものである。
そのせいか、実に快活に言葉が出てくる。
学生時代、土産物として、有名な銘柄の酒を買って帰った時、親父は「あほよ」と、苦笑を見せたことがある。
今にして思えば、酒でも飲まなければやっていけん、、、というような気持ちがあったのだろうか、、、
ある時、僕に、人生に於いて大事なものをひとつ挙げよ、、、と問うてきた。
僕は、物と心、と言った。
今から思えば、何となく変な講義のように思える。
またこんなことも言った。
「計画、実行、反省、評価じゃのう」、、、
「教育には明日かある」と、、、、
そしてわかりやすく、次のようなことを語りかけてきた。
「昔から言われているように、人生とは長いようで短いものだ、反面短いようで長いものでもある。過去を思い出したり、何年もの先のことを考えたり、真剣に考えると想像を絶するものがある。人の道というものは壮絶なものがある。見方によってはあじわいぶかいものでもある。酸いも甘いも、辛いも苦いもそれぞれ様々味わえる。人生を楽しむこともできる。」
「また人間として生まれてきたからには意味がある。自ら命を捨てる必要はない。命というのは自分ひとりだけの命でない。みんなの命である。死を選ぶということは、人間にとって犯してはならない最も許すことのできない浅はかな行為である。他者への迷惑を省みない恥ずべき最大なる悪為である。」
「死んで花見が咲くものかというように、自分の命は自分で守らなければならない。」
「人の道はそれぞれであるが、人間というものは何らかの事を為すということが一生に於いての課題である。そして生きるということは、人間に課せられた最大の使命である。この生きるということを考えなければならない。」
「また、人の道、人生、人の世というものを思い起こした時、人間というものは謙虚、控えめという姿勢が最も適している。昔気質ではあるけれども、時には自分というものを捨てて、慎まなければならない点も多々ある。この謙虚という心情が人間味をもたらせてくれる。今の世の中には人道主義、ヒューマニズムというような命題が欠けている。何でもかんでも主張するのはあまりよくない。現代の時代に適した考えまとは異なると思えるが、一歩譲った歩み方が適切であるし、またふさわしい。」
総領の甚六とは、よく言ったもので、僕はその典型的なところがあるように思える。
窓の外を見れば、赤トンボが飛んでいる。セミのなく声も少なくなり、陽の光も変わっている。
夏休みも終わりかと、つぶやいた。
ところが、夏休みといっても、本当に休める日というのは、数えるほどである。
一週間にも満たない。
昔なら二、三十日ほどはあったと思える。
しかしこの町では、行事が目白押しなのである。
実際に休める日は四、五日程度で、夏休みと言えども出勤しなければならない。
研修で休んだ日は、当然研修報告を出さなければならない。
そね内容は、緻密なもので、かなり詳しく報告しなければならない。
本当に休める日はお盆の時期程度である。
極端に言えば、夏休みがあるのか、ないのか、わからないような感触である。
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