第27話 ボクちゃん 27 松山

ボクちゃん 27

松山


そんなこんなで、一学期が終わろうとしている。


一学期の終わりには、研修旅行として、何処かの観光地へ行くのが通例だった。




今年は、四国の松山だそうである。


まさしく「坊っちゃん」である。



僕を皮肉っているのだろうか、、、




松山まで旅路は、爽快な気分を醸し出してくれた。



マイクロバスでの旅行だった。




旅の気分が味わえて、快適な道のりを走った。


夏の大空が広がって、入道雲が顔を出し、高速道路から展望できる景色は、まるで映画でもみているかのような感触を与えてくれた。


瀬戸内海独特のスクリーンが視界に入ってきた。



島々が僕達を待っていたかのように、点在している。



瀬戸内海を見下ろすハイウェイからは、松山湾が展望できて、その風景は、すばらしい旅情感をも、もたらしてくれた。



気持ちも高揚して、感激の色を隠しきれない心情にも陥った。






途中原田先生が「ねえ、ねえ、私達株式会社にしましょうよ、校長先生が社長で、教頭先生が部長で、課長が山岡先生、、、」



みんなは、そうしよう、そうしよう、、と、声が上がってきた。


車内は少し盛り上がった。



一見楽しそうに見えはしたものの、実は旅先で、小学校教師集団だ、ということが、バレないようにしよう、というようなことだった。



半ば冗談めいた発言に、車内の全員が苦笑した。




教頭の谷先生などは、嫌な顔つきをして、小さくなっている姿を露出していた。




松山に着いたのは、午後六時半頃である。


さっそく「坊っちゃん湯」に、見学がてらに入浴した。



この湯で夏目漱石は過ごしたのか、と思いながら身体を温めた。



そして外出して、街を少し探索してみた。



浴衣を着て、ひとりで下駄を履いて少しぶらついた。



同じ日本でも、何処かの異国へ来たような気がした。


また、如何にも観光地という雰囲気が感じられた。


街角にあるコーヒー専門店に入って、コーヒーを飲んでみた。


今でもこのコーヒー専門店は、少し覚えている。


コーヒーの好きな僕にとって、喫茶店に入るのが、ひとつの趣味だったのである。


観光地て入った喫茶店は数えきれないほど脳裏に写っている。


思い浮かべれば、喫茶店の随所のイメージが頭の中に浮かんでくる。



京都、大阪、神戸など、それぞれの喫茶店の様子が今戸も残像している。




喫茶店はさておき、松山での滞在時間帯は短かかった。



行動範囲も狭く、坊っちゃん湯のあたりしか徘徊することができなかった。


少し心残りだった。








そして、何はともあれ宴会である。



午後八時頃から始まり、校長の挨拶、幹事の司会、乾杯の音頭など、いつものように行われて、、、、そして、酒と両立に移った。





我先にと酒を飲むカマ男、カラオケを歌う山岡先生、ジュースを飲む原田先生、料理に走るくも助、



空手先生などは、蟒蛇の如くガブガブと酒をのんでいる。




山場に達した頃、空手先生は、、、学生時代に宴を充分経験していたのか、、、おもしろおかしく芸達者ぶりも披露している。



くも助、カマ男などは、一人前にカラオケでハーモニーを効かせて、ハモって歌っている。





各人各様日頃の学校生活を忘れて、おおいに盛り上がり宴会は最高潮に達した。







とにかくこの町の教師集団は、宴会、酒席が大好きらしい。




何かあればすぐ酒席を持っ。



行事ひとつ終わればすぐ酒席である。


僕はどちらかと言えば酒は苦手なほうだった。


少し飲んだらすぐに酔いが回ってきて、すぐに寝てしまうところがある。



酒が回ってくると、顔が赤くなってくる。


そして部屋の片隅へ行って、横になって寝てしまうところがある。



そんなせいなのか知れないが、どうも各先生の酒席での対話には参入できないところがあったのである。



酒について考えてみると、「酒は百薬の長」と言われている。ある人に聞くとやはり酒は身体に悪いという。



また酒を飲むと人間が変わるとも言うのである。



僕はどうも日本酒とが体質に適合しないところがある。


どちらかと言えばウィスキーのほうがあっていると思える。



日本人なのに日本酒が飲めないとは、少し変な肉体である。


また大学時代には、スナックのバーテンとしてアルバイトをしたことがある。


ジンフィズ、メロンフイズ、ジンライム、モスコミュール、などのカクテルをシェイクを振りながら、カウンターの前で披露したことがある。



カクテルというのは、色彩に隠されたアルコール度を持っている。


美しさに魅せられた魔力が潜んでいるとも思われる。



まあ酒についての講釈はこれぐらいにして、、、、






宴会の終了時間がきた。


そして万歳で宴会は終了、



時間も遅くなり、十一時半を回った。就寝の時刻である。



一部屋に校長、教頭、事務の岡田先生、、、もう一部屋に猫男、カマ男、くも助、空手先生、僕が入っている。



日本風の畳の部屋で、布団が並べられている。



女性教師達はもちろん別の棟である。





さっそく聞こえてきたのが、空手先生の鼾である。



ガオーガオーとものすごい音である。



つい二分ほど前に床に入ったのに、早くも鼾である。



何と、寝つきのいいことか、、、



熟年教師に聞いたことがある。



旅行に行った時は、先に寝たほうが勝ちと、、、




まさしくその通りだった。




ガオーガオーに続いて、少しも音量は低いが、猫男のゴーゴーという鼾が聞こえてきた。



そしてカマ男である。



カマ男などは、スース~である。



とにかく僕は眠れない。



この鼾大合戦には、笑いが出てきた。



そして後になればなるほど、確かに眠れないのである。




睡眠に入ったのは、おそらく午前三時を過ぎた頃だろう。




部屋中が鼾が鳴り渡り、ゴーゴー、ガオーガオー、グーグー、スースー、、、部屋中鳴り響いて、この旅館が壊れてしまいそうな始末である。




部屋も地震でも起こったようなぐらつきをみせている。




さすがにこの音量には、耐え難いものを受領した。


部屋の大音響が耳に伝わって、僕は眠れなかったのである。






翌朝みやげ物を買って、全員帰路についた。



行きも帰りも少人数だったので、車内での会話は、比較的穏やかだった。




帰路は、行路より静かなものだった。



一学期の疲れと旅の疲れか、、、みんなは睡眠の世界に入っていたのである。



行きはよいよい、帰りは怖い、、、、そんな言葉があるけれども、、僕の場合はそうではなかった。




いつも、行きは怖い怖い、帰りはよいよい、だった、、、が今回は違った。


どちらもよかった、楽しかった。


















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