第26話 ボクちゃん 26 相撲

ボクちゃん 26

相撲




今度は相撲の練習である。


僕としては、この町は、異常すぎるほどのスポーツの熱心な土地柄だ、と想えた。



一年間を通して、様々なスポーツが計画されている。


一学期には水泳、相撲、二学期は陸上競技、三学期には持久走大会、、、また年に三、四回程度のバレーボール大会、少年野球大会などのスポーツ活動が計画されている。



とにかく、驚くほどの年間計画だった。



こう忙しくちゃあ、やっておれん、、、そんな気持ちも必然的に起こってくる。


かといって、投げ出すわけにはいかない。



やるしかない、、、と決めて毎日の仕事に励んだ。




そうして、七月終盤、相撲の猛練習に入った。


五、六年生対象である。




運動場のほぼ真ん中に土俵を設ける。


土俵は、町の関係者総掛かりで築き上げる。



その土俵で児童は練習を積んで大会に望むのである。




児童は教室で素っ裸になって、褌を締めて、それから練習を開始する。


さすがに六年生にもなると、体格も立派になり、背丈けも僕と変わらない児童もいる。



そんな児童を相手に胸をつきあわせるのである。



ベテランの山岡先生の指導の下、僕も胸を貸した。



さすがに身体に堪えてくる。


どーんと頭突きをかましてくる児童には、胸板が熱くなってくる。



こんな子どもに負けてたまるか、なにするものぞ、と、気負って逆に投げ飛ばしてやった。




すると、山岡先生が言う。


「相撲の基本は押しだ、押し相撲だ、押しが基本だ、押しでいかなければダメだ」と激語した。





なるほど、そういうものなのか、と思いながら、少しは投げを教えてもいいのでは、、、



と思いながら、この山岡先生に従った。



両手を仕切って、はっけよい!



体格のいい児童に、まともに胸板を突かれたら、たまったものじゃない。



投げることができないのなら、受けるしかない、こちらも、踏ん張って押し返す。




僕は、相撲も苦手意識を持っていた。


相撲はあまり経験していなかったのである。



が、たかが、小学生四年生だ、負けてなるものか、、、、と、練習に胸を貸した。



蹲踞、仕切り、摺り足、四股踏み、、、と山岡先生が激を飛ばす。



そんな色々な相撲の基本的な練習を繰り返した。



山岡先生と、ふたりで、児童を相手にしながら、十日間ほど取り組んだのである。



真っ黒に日焼けした児童と、日没近くまで練習に励んだのである。




空には、宵の明星が映し出された日もある。


辺り一面が、紅色に見えた日もある。



茜色に飾られた日もある。



その夕暮れ時には、感激の色が滲み出るような快風が額に流れてきた。





そして、地内の学童相撲大会である。


この町の八幡神社の境内で実施される。



またまた家族総出である。


見物客も当然足を運んでくる。



土俵の近くは、人、人、人で囲まれて、肝心の児童の競技は、後方からでは見えてこない。



土俵の表面の机には、相撲有識者や、教師、教育委員会のお偉方、お歴々が列席している。



関係者の人が行司に成り済まし、「はっけよい、のこった、はっけよい、のこった、のこった」と、声を掛ける。



まるで大相撲夏場所児童大会の様相である。



それは、またしてもお祭りなのである。




真夏の真っ最中に、土俵は、沸きに沸いて、沸き起こった。








俗に、

「二学期はつかみにいく」「二学期は共に勉強する」「三学期は引き離す」という定説がこの町に定着していた。


僕は、よくわからなかったし、気にしていなかった。


また、年度始めには、「軌道に乗せる」ということに先生方は、重きを置いていた。



全教職員が、この軌道に乗せるということを重要視していた。


が、この軌道に乗せるということも、若い僕にはあまり理解できなかった。




毎年毎年、毎学期毎学期、この軌道ということを意識していたようである。



が、僕としては、このこともあまり気にはしていなかった。




たかが小学校だ、そのくらいのことは、年度始め、学期始めの校長の訓話によって、二、三日でできるはずだ、とも思っていた。



ところが、実際には、このことが、重要な問題となってくるのである。


その実践には、必死で取り組んでいる様子が見受けられたのである。






また「型にはめるな」という説もある。型にはめずに、育み育てていきという

説である。



この説についても、僕は全くの無頓着だった。


が、型にはめないで育てていくには、相当な教師の力量と度量が必要だということである。


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