第23話 ボクちゃん 23 水泳

ボクちゃん 23

水泳



次は水泳指導の時期である。



校舎は木造で古くてもプールは設置されていた。


講堂の横の小高い丘の上にプールが並立されていたのである。


プールは大プールと小プールに分かれ、低学年が小プール、高学年が大プールとほぼ決まっていた。



指導方法は各学年様々である。


時間を割り当てて、一学級一日一時間程度練習する。



スポーツに対しては、僕はかなりの自信を持っていた。



自分で言うのもおかしいが、学生時代に、卓球、鉄棒運動、バレーボール、バスケットボール、サッカー、野球、ソフトボール、陸上競技、柔道、その他色々なスポーツを経験していた。


そんなに優れたスポーツセンスではないけれども、ある程度の運動神経は持っている。


自負するに値する程度のセンスは持っているのである。


中学時代は中級のバッチをもらったこともある。



大学にはいった当初は空手部に入ろうと思っていた。何故か空手というものに興味を持っていたのである。


ところが僕の入学した大学には空手部がなかった。少林寺拳法部しかなかったのである。


この少林寺拳法部にはあまり惹き付けられるものかなかった。


あまり魅力を感じなかったのである。



今から思えば、同好会でも結成して、空手に親しんでいたらよかったのでは、、、とも思う。


この同好会を作るという考えが何故か沸いてこなかった。


もし、空手部があったら、僕の人生も変わっていたかも知れないと思える。



例の空手先生に匹敵するほどの腕は身に付けていただろうと自負している。



とにかく空手道場にも足を運んだことがある。








ところが僕は水泳はやや苦手だった。



何となく嫌な気分がして多少の不安を覚えていた。


でも仕方がない、苦手にしても、何にしても指導していかなければならない。



故に色々な書物やビデオを調べて、水泳に関しての指導法を探ってこの時期に備えていた。






そんな時期の前々日「佐々木君、プール開きにひとつ模範水泳をしてくれないかね」




これは例の校長の言葉である。


またまた一言言ってきた。



こんなことが言えるのは校長ぐらいである。



そもそも一般教職員というのは、組合があり、様々なことに於いて管理職と話し合いを持って物事を解決、処理していくものらしい。


この模範水泳ということに関しても、今までにかなりの話し合いが為されて、なかなか結論が出てこなかった、ということである。



そして、この組合というのも僕にはあまり理解できない面が多分にあったのである。




「先輩達が勝ち取った権利を引き継ぎ、もっと労働条件を改善して、様々な条件を拡大してあかなければ、、、」と言うのはあのくも助野郎である。


まさしくそれは一理ある。


先輩達が勝ち取ってきたおかげで今日があるのだから、、、



そう思って僕も組合に加入していた。



組合のことはさておき、模範水泳である。



新任の僕としては、何とも断りようがなかった。




教頭は何も言わずに黙って側で聞いていた。



他の先生方も冷静な態度をして、僕を注目していた。


過去には、この地域で模範水泳をした教師は誰もいない、とも聞いていた。


周りの空気は冷風が漂っていた。


先生方も僕を見つめていた。




けれども、最初の参観日の事が尾を引いていたのである、、、


バレーボール同様、またまた引き受けざるを得ない状況に陥ってしまったのである。


まわりの空気も冷風が流れていた。


各先生方の目も僕を見つめていて、何とも言い様のない気配が漂っていた。




内心思案していたが、、、



かといって断りようがなかった。




「まあ、何とかやってみます」と、答えてしまった。







平泳ぎには、少々自信を持っていた。



が、どうもクロールは、、、、と苦手意識を持っていた。



息継ぎが下手なのである、


息継ぎが難しい。



息継ぎさえできれば、簡単だが、、、



そう思いながら、、、



プール開きの日である。



飛び込み台で、プールの水面を眺めながら、フォームを整えた。


プールサイドには全校生、二百人ほどが、胸をときめかせて座って見学している。



先生方も同様、物珍しげに見ている。



どうしようか、と迷った。


平泳ぎにするか、クロールにするか、、、判断する余地はなかった。



ザブーンと飛び込んだら、クロールになってしまったのである。




小さな二五mのプールである。


僕は、一気に息継ぎもせず、水のなかで無心で腕をかいた。




気がついた時には、二五m泳いで、プールのゴールに達していた。



何はともあれ終わったという感触がした。



その途端、大きな拍手が沸き起こった。



何故だかわからなかった。



後で聞けば何の事はない。


フォームがとても美しかったとのことだった。




空には煌々とした灼熱の太陽が照りつけている。




これから、夏真っ盛りの季節へと進む時期だった。



こうして水泳指導が始まった。


暑い暑い夏に、水に親しむ児童達の歓声で、毎日が満ち溢れていた。





セミの泣く声、青空の下、ギラギラ輝く太陽を浴びて、山の緑と相まって、、、、プールの青と子ども達、わーわー、キャーキャー、賑わいながらこの頃の月日を送っていた。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る