第20話 ボクちゃん 20 ある日のこと
ボクちゃん 20
ある日のこと
そんなある日、ひとつの事件性が起こった。
昼休みに六年生の児童が暴力行為を起こした。
所謂喧嘩である。
僕が廊下を巡視していた時だった。
いくら小学生だといっても、六年生にもなると、子どもの喧嘩とはいえない。
とにかく止めなければストップしないのである。
少し激しいものがある。
そばにいたひとりの児童も、慌てふためいて、止めていた。
放置していたら、怪我でもしそうな殴りあいの喧嘩である。
僕は、別になんの動揺もしていなかった。が、止めなければ、、と思って「やめー」と声を出して二人の喧嘩を制御した。
が、一向に停止しない。
暴力の世界に入ってしまって、僕の声が聞こえなかったのである。
そこで、僕は両手の手のひらを使って、ふたりを突き飛ばした。
倒れたふたりは、放心状態に陥ったような顔をしていた。
そして、喧嘩を止めていた児童に、ひとりを保健室につれていけ、と命令した。
もうひとりの児童には、暫くそこに座っていろ、と言ってその場を制した。
僕の学生時代もそうだったが、喧嘩というのは、ほんの些細なことから起こってくる。
誰もが経験して周知の如くである。
ところが、現在の児童は、加減を知らないのである。
放っておけば、倒れるまで殴りあいをする。
僕らの子どもの頃は、手加減というものを知っていた。
昔はまあ、喧嘩は子どもに付き物である、子ども達が成長していく上において仕方がない、という考え方もなきにしもあらずだった。
地域社会も見守ってくれていた。
ところが最近の子どもは、歯止めの効かないところがある。
喧嘩の怖さを知らない。
だから余計に心配する。
当然、子どものことだから、明日になればけろっと忘れてしまうとは思うが、、、そう思って訳も聞かず、ふたりを引き離すだけのことにした。
頭を冷やしてこい、、と思いながら、、、、
が、しかし、最近ではそれぞれの児童に言い分があり、お互いいの理由を聞いて、相互に納得しなければ了承できないというような風潮である。
たかが子どもの喧嘩だとは思えないのである。
説得して、両者がお互いに理解し合うまで、話し合わなければ解決できないようなところがある。
昔なら先生の「やめー」と、一括で裁けたものである。
、、、難しいものがある。
またある日の昼休みの時間に、僕の学級でもめ事が起こった。
ひとりの児童と、他の数人の児童で騒動が起こった。
見ていた女子児童二、三人が職員室へ駆け込んできて、「先生、大変や、大変や」と叫んできた。
僕は子供のことだ、そんなに心配することはないと思っていた。
別に大して気にはせず「どうしたんや」と言いながら教室へ入っていった。
するとひとりの男子児童が、数人の児童相手にわめいていた。
「死んだる、死んだる」と言って、窓の欄干に足をかけて涙を流しながら叫んでいたのである。
僕は一括浴びせた。「落ち着け!」と一言号した。
するとその児童は、なよなよして窓から足を外した。
そして教室の中に座り込んで、およよと泣き崩れてしまった。
原因を聞いてみると、ほんの微々たることからこの波乱があったらしい。
おそらく何かいやなこと、気になることを言われたのだろう。
俗にいういじめかもしれない。
この出来事には女子児童達は泣き叫んで驚いていた。他の男子児童もびびってしまって、どうすることもできない状態だった。
が、とにかく僕の一言でこの事件は収まった。
またある日の午前中に、六年生の補欠授業に行ったことがある。
各班ごとの授業形態をとる自主的学習の時間だった。
途中、何があったのかわからなかったが、、、
急に私語が多くなり、騒がしい状態に陥った。
そんな中で、ある班を見ると、女子児童が、じゃんけん、をしていた。
僕は少し気になったので、注意を促そうと思って、、、「何をしているの」と問いかけた。
この言葉には、静かにしなさい、という僕の思いがある。
ところが、この女子児童達は「じゃんけんをしているのよ」と答えた。
この返事には、さすがの僕も返す言葉が出なかった。
六年生の女子にもなると、なかなか説得するのが難しい。
相当な説得力を持っていないと、、、そう簡単にはいかないものがある。
「今、じゃんけんをする時間かな」と聞いたら何も返事がない。
少し腹立ちを感じたので、「もう少し真面目にやれ」叱った。
少々堪えたようである。
けれども、このじゃんけんをしているのよ、と答えた児童には、どう対処していいのか、迷いが出てしまった。
また授業中に、笑いを取ろうとして、ジョーク、駄洒落を飛ばしても、、寒ぶー、と言い返してくる。
洒落というものが、全く通じない、、、駄洒落を投げたら、菜かには目をむいて怒ってくる児童もいる。
また、命の尊さを説こうと思って、、、人間は生きることが大切だ、、、生きるということに意味がある、、、と熱を入れて力説したことがある。
ところが教室の片隅の方から、「ひとりで盛り上がっている」
こんな言葉が囁くように聞こえてきた。
僕は何とも言い様がなかった。
この冷ややかで、冷静な態度には、どうすればよいのか、わからなかったのである。
呆気にとられて開いた口が塞がらなかった。
ある日のことである、授業中に、ひとりの女の子がこんなことを質問してきた。
「先生、誕生日はいつ?」
僕は正直に答えていいのか、冗談を言っていいのか迷った。
何かプレゼントをしてくれるのかな、、、と思いながら、明後日や、、、と言って思わず嘘の日を口走ってしまった。
すると、その女の子は僕が告げたその日に、「先生、これ誕生日のプレゼント」と言って接してきた。
そして、小さなハンカチを僕に手渡してくれたのである。
まさか、プレゼントをしてくれる、とは思っていなかった。
ましてや、嘘の日の誕生日である。
少し汗がでた。
少々気を使いながら、ありがとう、と言ってそのプレゼントを受け取ったのである。
ところが僕は、ばか正直なところがある。
黙ってもらっていたらよかったものの、、、あの日は嘘や、誕生日はまだまだズーと先や、、と言ってしまった。
その女の子は、相当ショックを受けたのか、何か沈んで暗くなった表情を表してた。
そして、唖然としたような態度を示してきた。
僕に対して、信頼感を失い、こわばりの顔つきを見せてきたのである。
その後、僕を疑いの眼差しで見つめてくるようにもなったのである。
僕はかなり反省した。
しかしながら、後の黙阿弥である。
純情可憐な乙女心を踏みにじったことになってしまった。
嘘でもいいから、ありがとうと言って受け取っていたらよかったのである。
そして、次の日、「これ、プレゼントのお返し」とお礼のプレゼントを返した。
そして謝った。
けど、この女の子の深刻な態度は暫く変わらなかった。
この女の子の傷は、取り払うことができなかったのである。
確かに児童はメンタルな面を持っている。
児童の心を大切にしなければ、、、、と反省せずにはいられなかった。
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