第19話 ボクちゃん 19 山岡先生の言

ボクちゃん19


山岡先生の言





「現在は複雑多岐な社会である。混乱、喪失、多様化、価値観の相違、困窮、社会通念の希薄、常識、善悪の判断の欠如、溢れんばかりの情報網、不信、不条理、理不尽、享楽主義、刹那主義、方向性の皆無、低迷、混迷等々様々な様相を呈している。すべてのものが覆されている呈相である。全く不透明な現況で、一寸先さえ見えない誠に難しい時代である。交通事故、自殺、いじめ、死を間近に迎えているその日暮らしの老人達、不登校、崩壊、家庭関係の欠如、親の良識不足と自信の喪失、認識不足等、何が起こるか全く予期できない危険極まりない時代である。教育という重大な問題を鑑みると、その随行には誠に難しいものがある。時代を問わず教育の重要性は常に懸念されているが、今日ほど困難な時代はない。また科学技術の進歩もますます向上し、ありとあらゆるものを解明していくと思われる。その勢いは驚異的なものがある。また人間学の解明もどんどん進歩して神をも超越していきそうな勢いである。すべてを解き明かしてますます発展していくとも思える。何もかもが天井知らずの変革を示している。また自然との調和、共存をも解明して、すべての物事を克服していくようにも見えている。だが先は見えない。十年後、二十年後の先のことを考えてもすべてのことに於いて何の役にも立たないと思える。明日さえどうなるかわからない時代に先のことを考えてもすべてのことに於いて実現する可能性は少ない。不景気、リストラ、ベンチャー企業、次々と社会を襲ってくる状況の中で、人の命の尊ささえ見失っている。危険極まりない、人心不乱も甚だしい様相を呈している。物事の真偽さえもわからないし、また生きる活路さえ見当たらない。著しく変化した社会の中で、手段を選ばぬ大人達、若者達の暴走、老若男女が私欲と物欲に対して取り乱している状況である。誠に難解不明な社会風潮が見受けられる。確固たるものは何処にもなく、確信できるものさえ何処にも見当たらない。一歩一歩手探りで歩いていくしか方法がなく、不安感を抱きつつ、着実に踏みしめて進んでいくしか方法がない。先の見えないまさに暗黒の闇夜の世界と化している。情報化社会の到来でますます変化していく不安に戦いた変乱をしめしている。現在に於いては、様々な諸事情に対応することも不可能な状態に陥っている。」




とは山岡先生の言である。


僕から見ると、小学校の教師ではあるけれども、山岡先生は常に現実社会を認識していると思えた。








またある日、山岡先生が僕に追いかけてきた。


「僕は小論文を書いたんだ、見てくれないか?」


前述のように、山岡先生はキャリアも充分だし、社会、児童を見る目などは人並み外れた鋭い眼力、洞察力を持っている。


到底僕の及ぶところではない。


「拝見させていただきます」


そう答えて文面を受け取った。



その論文はこうである。


題名は「問答歌」と書いてあった。





問答歌


「現代社会を考察すれば、筋も道理も見つからない、常識なんか消え去って、正義の味方も消えている、昔は正義が勝っていた、今の世の中おかしくて、何とかここまで来たものの、今後の社会に見通し立たず、こんなことじゃあままならず、一体どうなる今後の社会、お先真っ暗闇夜の世界、げに恐ろしき風情の中で、どうすりゃいいのか人間社会、救いの道は何処か近くに潜んでいる、温故知新を思いだし、必ず見つかる救世主、人間社会の構築は、人の原点取り戻し、以心伝心伝えれば、人の心も付随して、何か変化が見えるかも、光が差すのはいつ頃か、足元固めよ侍たちよ。





一寸先は闇の世の、渡る世間に鬼はいる、明るいことはいいけれど、暗くなって滅入りがち、人の命を亡くしても、涙は枯れて流れない、旅は道連れ 世は情け、旅の恥はかき捨てと、そんな風情も何処へやら、何処へ行ってもアップップ、空でも飛んでみようかと、思ってみてもできなくて、家庭崩壊 学校崩壊、そうかい 桑海悲しい話、たった一度の人生も、ままにならない当世の、一体何処まで行けばいい、ユックリズムが大切と、リラックスが大切と、指導助言を与えても、生きてる心地がしやしない、飛んで火に入る夏の虫、今は春一番が吹いている、春眠暁を覚えずと、寝ては見るけど目が覚める、夢の世界が一番と、毎夜 毎夜夢心地、夢の中でも働いて、労働時間 基準法、どうかなってる現代社会、どうなるこうなる今後の惑星、砕け散るのか太陽系、そんなこんなで今日も雨、本当の春はいつくることか、聞けど 尋ねど 天気予報、明日も雨か アマヤドリ、行ったり来たり彷徨の、星の数ほど人はいる、そんな星の群れの中、辿り着くのはひとりだけ、当たって砕けろ 流星の如く、冬には冬の星座あり、夏には夏のバカンスが、温帯地方の四季の声、風光明媚な感触を、つかんで楽しむ周波数、毎年毎日明日は来る、日はまた登り ヘミングウェイ、いつまで続く人類時代、2000年がもう早過ぎた、太陽系の恵みを受けて、銀河系まで飛んで行け、人間世界のコオロギ達よ、どこ見て暮らす日々の生活、天井台風 痛快に、歩いていきたい世間を捨てて、真っ直ぐ生きよう 言ってはみても、なかなか世の中ままならず、ただひたすらに まだ来ぬ春を待つばかりなり。」



若い僕にはわかるような、わからないような変な気分になった。



文調の良さはわかるけど、一体何が言いたいのかよくわからなかった。



おそらく山岡先生も僕同様今の世の中を悲観的に見ているのかも知れない。





そう考えると僕も共鳴するような気持ちが沸いてきた。





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