第16話 ボクちゃん 16 ソフトボール大会
ボクちゃん 16
ソフトボール大会
この地の教職員にとっては、幸か不幸か、リクレーション大会がある。
スポーツ大会としてのソフトボール大会である。
暑い夏がやって来る前に、このソフトボール大会が始まった。
年齢制限、二十代、三十代、四十代、女教師によって構成されたソフトボール大会である。
他界には、あまり知られていないが、かなりレベルの高い大会である。
毎年、教職員が日頃のストレス解消を図る、と言っては語弊があるが、かなり力の入ったリクレーション大会である。
ある意味ではストレス解消もできるし、日頃の疲れを流すこともできる。
熱心な教師になると、この大好きに命を懸けているとも聞いていた。
三試合連続で勝利すると地区代表に選ばれる。
そして、学生時代に野球、ソフトボールを経験した人を、特に「ホンチャン」という。
この「ホンチャン先生」は、一般教師とは違って、確かに高度なプレーをしていた。
僕も選手に選ばれて、、、ファーストを守った。
打順は、五番打者である。
一試合目はなんなく勝利を収めた。
二試合目、一度打席に立ってみた僕は、この球なら打てると、確信を持った。
打順が一回りして、、、まず三番打者がライトオーバーのホームランを打った。
続いて四番打者、またまたホームランである。
三番、四番とも左打者である。
五番の僕の打席がきた。
僕は右打者である。
当たれば飛ぶ、、、と思って好球を待っていた。
いきなりど真ん中にボールがきた。
ピッチャーのボールは、遅くもなく、ものすごく速いボールでもない。
僕は満身の力を込めてバットを振った。
とにかく打ちごたえがあった。
かキーンという音とともに、打球はぐーんと伸びて、レフトオーバーのホームランだった。
大空の中に浮かぶ白球、空中に浮かぶ球ひとつを打席からみるのは、嬉しいような、、、何か快感を感じるものがある。
青空に浮かぶ一つの白球は、爽快な気分を与えてくれた。
試合場は、この地域の中学校のグランドである。
まわりは山に囲まれていて、一種独特な景観を映し出している。
炎天下の下、指揮官の教師監督が言った。
一昔前に見た阪神タイガースの三連続ホームランを思い出すなあ、、、
試合はこの僕の一撃で、相手チームはゴールド負けを宣した。
天気も晴れ晴れとして、青空が空間を作り出し、何かメッセージを与えてくれるような青の空である。
三試合目、決勝戦、さすがに相手は手強い。
得点は四対三でこちらの有利、重大な局面を迎えた。
試合の山場である。
ツーアウトフルベース、あいにくこの場面で、僕の打順がまわってきた。
ここで一打出ればぐーんと引き離すことができる。
相手ピッチャーは、ホンチャンもホンチャン、大学時代まで野球をしていたというピッチャーである。
ボールコントロールがうまく、アウトコース、インコース、ハイ、ロウと投げ分けてくる。
さすがに僕もたじろいだ。
野球とかソフトボールは、観客として見ていても、肩に力が入って一球一球固唾を飲む。
自分がプレーしているかのような気持ちにもなってくる。
そして、カウントはツースリーとなった。
相手ベンチから、応援の声か、声援の声か、息をひそめた「ツースリー」というため息の声が聞こえてきた。
僕もプレッシャーを感じた。
そして僕は、好球必打、と唱えて球を待っていた。
ストライクともボールとも言えないきわどい、、、アウトコースやや高めのボールがきた。
僕は無心でバットを振った。
キーンと鈍い音がして、球はセカンドの頭上へと飛んでいった。
そして、セカンドのグローブを弾き飛ばして、球はセンター方向へと転がっていったのである。
二者生還、二点が入った。
それから最終回の裏になった。
ワンアウトをとったけれども、次のバッターにヒットを打たれてしまった。
相手チームは、逆転しようとして、猛烈なプレッシャーをかけてきた。
緊迫した、試合の最高の山場となった。
指揮官の監督先生はかなりの野球通だった。
タイムをとって、守備をかためようとして、全員をマウンドに呼び寄せた。
そして、ショートの守備に注意するよう指示を出した。
すると、案の定、監督が言ったように、次のバッターはショートに打撃を打ってきた。
この監督の読みには、鋭さが感じられたものである。
ところがそのショートがトンネルを犯してしまったのである。
そして、ワンアウト、二塁、三塁の局面に達してしまった。
一打出れば逆転サヨナラゲームとなる場面である。
次のバッターは犠牲フライをレフトに打ってきた。
僕はこの決勝戦ではレフトを守っていた。
僕の守っていたレフトに球が、飛んできたのである。
ところがファールフライだったのである。
ベンチからは、取るな、取るなの声が聞こえてきた。
何故ならば、タッチアップというルールがあったからである。
僕はそのファールフライを受け取ってしまった。
そして本塁に力一杯の返球をしたのである。
しかしこの返球は、全く悪返球の暴投、大暴投だった。
二塁、三塁のランナーは本塁めがけて走っている。
当然キャッチャーは受けることができない。
ランナーはすでに一人生還している。
次のランナーも本塁めがけて走っている。
ところが我がチームのピッチャーもホンチャンだった。
こねピッチャーは、本塁のかなり後方のバックネットの前に、カバーに入っていたのである。
僕の大暴投の悪返球を待ち構えていたかのように受け取った。
そしてキャッチャーに送球した。
二塁からのランナーは、あえなく本塁寸前でタッチアウトとなった。
夕陽が美しい光線を放っている。
夕陽さえも新鮮な空気を味わっているような光沢がみえている。
やがてその夕陽も低くなり、まわりは薄暗くなって試合は終了した。
心地良い汗と清々しい気分が素肌を洗ってくれた。
結局、試合結果は8対7で、我がチームが勝利を収めた。
野球はこの8対7のゲームが、一番醍醐味があるという説がある。
正にその通りで、実に面白くて、楽しいゲームだった。
このソフトボール大会で、教師達は、日頃の多忙を忘れて燃えに燃えた。
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