第6話
昨日の作戦会議を終え、今日も今日とて登校して教室で授業を受けている。
恋華の話では、今日は彼女がアイデアを出しそれを実行するとのことだったが、登校時には特に変わった様子もなく、何気なく私がそれを尋ねてみてもフルフルと首を横に振るだけだった。
しかし3時限目の授業は私が昨日授業を抜け出したときと同じ古文で、担当教員は
そんな八乙女先生の授業で、ついに恋華が動き出した。
「一応聞いておくぞ恋華。何をしているんだ?」
「見たままだよぉ」
「そうか」
私は息を吐き、一度恋華から視線を外すと頭を抱えて現実逃避し、確認のためにもう一度彼女を見て世界はクソだという認識を持ってうな垂れる。
「鶴来ぃ~、授業中だぞぉ」
「こんぶの活動ですぅ!」
「そうかぁ、怪我だけはするなよ~」
自分が顧問を務めている部活に甘過ぎはしないだろうかあの教員。
恋華は先生が来た途端、いそいそと机を退かし、その場で布団を敷いて横になり始めた。
彼女の上下左右のクラスメートは特に何も感情も抱いていないようなまっさらな顔で恋華から距離を取り、当たり前のように授業を受ける姿勢になっており、適応能力の高いクラスに涙が出そうになる。
「のがちゃん、ウチは飛ばすよ……お布団を!」
「そうか。ところで恋華、私にはその布団、羽毛が詰まっているように見えないのだが、何が詰まっている?」
「モツを明かすなんてのがちゃんのエッチ」
「そんな生温いものが入っていたら私はお前と縁を切るよ」
「大丈夫今流行りの100%天然由来だよ」
「大地の息吹を感じるな」
十中八九砂が詰まっている。あれでは布団ではなくただのサンドバックだ。凶器を生成してどうするというのか。
「う~んと、これちょっと扱いが難しいなぁ」
寝そべって布団を掛けている恋華が布団(砂)を足で器用に持ち上げ、ピザ職人のようにクルクルと回していた。
あれでも相当重いはずなのに、どうして彼女は楽々と持ち上げているのだろうか。
「鶴来ぃ、怪我させるのなら身内だけにしておけよ~」
「先生、生贄要因に左慈をノミネートするのは止めてあげてください」
「わかってますよぅ。わ、わ、ととと――あっ」
集中が切れたのか、コントロールしきれずに恋華の足から布団が飛び出した。
そしてその布団は圧倒的暴力を伴って宙を舞い、ぎゅんぎゅんいいながら窓から外へ飛び出していった。
ちなみにここは校舎3階である。
ドスンという音がここまで聞こえてきた。
けれど私の耳にはそれ以外の音が聞こえてきており、授業中であるにもかかわらず、席を立ち、そっと窓に寄り添い布団が落下した箇所に目をやる。
「教頭ぅっ!」
外からそんな声が聞こえてきて、私の目には確かに、布団を頭からかぶりスヤぁしているだろう何者かの手がお布団の下から見えていた。
「……」
「……」
私はそっと窓を閉め、席に戻り授業を受ける姿勢になる。恋華もまた、机を元の場所に戻し、ノートを開き始めた。
「授業の途中だけれど、先生は
「天が割れ大地が落ちてきたか」
老人もこの学校で恋華と同じ時間を生きていたのなら、無駄なことと切り捨てられずに、心構えの出来る人だと賛美されていたかもしれないな。
「のがちゃん、コンブ書の1ページに刻んであげなよ」
「教頭の断末魔をか? いい度胸だ、後で反省文を提出するぞ」
机に突っ伏す恋華を横目に、今事記部の今後を心配せずにはいられないのだった。
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