第3話
「のがちゃんの脳って2つあるの?」
「奇天烈なことを聞く奴だな、私の頭に脳が2つも入っているように見えるのか?」
恋華から奢ってもらった、ナタデココの入っている乳酸菌飲料を飲みながら授業をサボっていると、ふいに彼女が訳の分からないことを尋ねてきた。
「うんごめんね、じゃあストレートに言うね? バ~ッカ! なのがちゃんとテストで好成績とるのがちゃんの差がひどいから、もしかしたら脳が2つあるんじゃないかと思って」
「うっせぇ! ば~っか!」
なんて失礼なことを言うお団子なんだ。
ジュースを買ってもらっている間、私は昨日の出来事を恋華に話した。それなのにその感想が脳2つ説の提唱とはどういうことなんだ。
私は口の中に残ったナタデココをコリコリと噛みながら、恋華を睨みつける。
しかし彼女はそんな視線ものともせずに、缶コーヒーを飲み干して缶をゴミ箱に放り投げた。否、コンビニでもよく見る2つ口があるゴミ箱の穴の1つに向かってメジャー投手もびっくりな剛速球を叩きこんだ。
穴に缶が吸い込まれるように入っていく様に私は戦きながらも、睨みつけるのを止めなかった。
「まあ、のがちゃんが1年で成長するわけもないからこれ以上は何も言わないよ。それで部活の方はどうするのさ、別の企画を考えるの?」
「一度口にしたことを止めるわけにはいかないだろうが、私にも部長としての意地がある」
「部長の意地よりも通してほしい意地があるけれど……でさ、それって一体何をするの?」
「だからお前、その~あれだよ、そう! まずはポピュラーなところから攻める。ふとんがふっとんだとかな!」
「……ねえのがちゃん、ウチの頭が悪いからかな? どう考えてもそれを面白おかしく解釈するのは無理だよ」
「それはお前の脳が筋肉で出来ているからだ。わ、私ほどになればこのダジャレの解釈の1つや2つ――」
「へ~、そんなに出てくるんだ~」
心なしか恋華の笑顔の裏に修羅が見える。いや、実際に額に青筋が浮かんでいる。
「じゃあ今日やろうか?」
「え?」
「だって思い浮かんだんでしょ? 有海くんにはウチから伝えておくから放課後、絶対に逃げるなよ?」
「あ、あの、恋華さん?」
「ウチの脳は筋肉出てきてるらしいからね~、ぜひぜひ脳が2つはあるだろうのがちゃんのお手並みを拝見させてもらうよ~」
「ま、待て! 私にも準備やその他諸々が――」
「ウチがそろえてあげるから心配しなくても良いよ~」
そもそも最初に喧嘩を売ってきたのは恋華ではなかっただろうか。私はそんな理不尽を覚えながら頭を抱える。
「ウチ別に脳筋じゃないもん。ちょっと力の強い可愛い系の女の子だもん」
「あ、ああ悪かった。謝るから今日は勘弁してくれ」
「え?」
「え?」
恋華の手元を見てみると、すでに携帯端末が握られており、すでに誰かにメッセージを送ったのか、シュポッという音が鳴った。
「……誰に送った?」
「え、有海くん」
「馬鹿野郎お前、やっぱ脳筋じゃないか! 可愛い女の子を自称するなら空気くらい読め!」
「あんだとこらぁ!」
恋華の手が私の頬に伸び、グニグニとこね回される。
止めろ頭蓋骨が割れる。
「そ、それにクロウに私が意欲的だと知られたらどうなるか――」
「蜜柑ちゃ~ん!」
私はハッとなって振り返る。
自販機のある場所の対面には私や恋華、クロウのクラスがある校舎があり、メッセージを送られたからか、クロウが身を乗り出して窓から手を振っており、その瞳の中には、しいたけ――星が見えた。
「それじゃあ放課後頑張ろうねー」
「おいコラ有海! 何授業中に騒いでんだ!」
「だって蜜柑ちゃんが――」
そんな声が聞こえてきてクロウが教室に引きずり込まれて窓が閉められたのを横目に、私は体を震わせて力なく恋華を見た。
「まあ、どんまい」
「誰のせいだ誰の」
「ナタデココもう一本奢ってあげるからさ。あ、それともお昼に焼きそばフランスパントッピング奢ってあげようか」
「いらん。ナタデココで良い」
命を運ぶ初々しい風も、今の私にはからっ風にも等しく、放課後行なわれることにげんなりしながら、私は2本目のナタデココ飲料を口に運ぶのだった。
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