第86話 真祖ヴァニキッシュ

 カリフォルニア州。

ダンジョンのゲートから出てきた白髪の男。

白い肌に真っ赤な唇、血の様な色をした瞳。

鬼牙が生えているのが見える。


 背中には大きな黒い翼が生えており、よく見るとコウモリの翼を大きく太くした様な見た目。


 「異世界か。俺の念願が叶う時が来たか。【ベルセルク】では世話になったな霧雨。そして、くははは。やるなぁ。流石だねぇゼノン。俺の配下を全て一撃で屠るとは。相変わらずの化け物っぷりだ。」


 「お前は……。ヴァニキッシュ‼︎」


 「ふふはは。覚えていてくれて嬉しいよ。剣神【霧雨】。いつぞやは世話になったな。貴様もゼノンを待っているのか?」


 「お前には関係ないのだよ。」


 「そうか。ならば貴様は黙って見ているのだな。俺が彼奴を殺す所をな。」


 ヴァニキッシュはニューヨークにいる不動の位置を感知し、目を向ける。

体からは闘気と血気が溢れ、大気が震える。


 「ふん。相変わらずなのだよお前は。神に並ぶ力を持っていても、神にはなれない哀れな男なのだよ。」


 「それは貴様もだろう。剣神と呼ばれながらも神との契約でその末席にすら入れて貰えなかった可哀想な男だ。」


 睨み合う二人。

あまりの覇気に大地が震え、大気が割れる。


 「ふん。お前の目的は我が親友だろう。早く行け。そしてすぐに討たれてしまうのだよ。」


 「くははは。そうはならん。奴は必ず殺す。闘神ゼノン。俺の右目に癒えない傷をつけた男。この俺の美しい顔に。」


 「心の狭い男なのだよ。」


 「ふん。ゼノンを殺した後は貴様の番だ。霧雨。」


 「叶わぬ夢なのだよ。精々頑張りたまえ。」


(ゼノンが昔の強さなら一瞬で終わるのだよ。それ程にあいつは圧倒的なのだよ。)


 ふっ。と笑う口元。


 ヴァニキッシュは空を飛び、音を超えた速度でニューヨークへと向かう。


 ニューヨーク。


 不動は強大な気配がこちらに近づいてくるのに気がつく。そして遠くにいる懐かしい気配も。


 「まさかな。」


 古い記憶が蘇る。

遠い遠い闘いの記憶。幾度も闘い、殺し合い、そして親友となった。


 剣神【霧雨】。

俺の剣の師匠であり、仲間であり、友であり、同じ女を愛した男だ。

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