第84話 その男の名は

 SS級ダンジョンから突然現れた男。

銀色の長髪を後ろの結び、和装を着用する男。


 見た目はただの人間。

しかし、その実力はこの場にいる誰よりも強く、底が知れない。


 「せっかくダンジョンを通じて来たというのに……失望したのだよ。我の願いは叶う事は無いのかもしれない。」


 心底がっかりした様子の偉丈夫は、刀を鞘に納める。


 第二次元ユニークスキルを発動したハンターを目の前にしガッカリするその男。


 「あ、あなたは何者なの!?」


 「なんなんだ!?お前は。」


 「言葉が不思議と理解出来る。我か?我の名は【霧雨】。我の世界にて【剣神】と呼ばれているのだよ。」


 【霧雨】と名乗った男にハンター達は疑問を投げつける。


 「何故異世界の人間がダンジョンを通って俺たちの世界に来たんだ。」

 

 「来た理由か。親友を探しているのだよ。」


 「……親友。いる筈ないじゃない。貴方が居た世界じゃないのよ!!」


 「いや居るはずなのだよ。剣神と呼ばれた我よりも強く、勇ましい男が。」


 「そんなの居る訳ないじゃないか。この世界に………。あっ。」


 マルコの脳裏に一人の人物が思い出される。


 「姿形は分からないが、魂の格は変わらないのだよ。一目見れば分かるのだよ。この世界で1番強い男。それが我の親友なのだよ。」


 世界で1番の男がハンター達の脳裏によぎる。

No.1。最強の男。


 「もしかしたら彼かもしれないわ。で、でも彼は来ないって……。」


 「ん?思い当たる節があるのかね?では我はこの場にて待つと伝えてくれたまえ。」


 胡座をかき、地面へと座る霧雨。

その堂々たる振る舞いにハンター達は思わず呆けてしまう。


 「とりあえずダンジョンブレイクは収まりそうね?なんだ……。」


 と安心した途端、ダンジョンからは魔物が群を率いて、飛び出してきた。


 未曾有の災害の始まりである。

胡座をかいている霧雨の周囲はまるで別世界となった様に魔物は近づかない。

 

 霧雨との実力差が本能で感じ取れたからだろう。


 「な、なんで…!!」

 

 霧雨がダンジョンから出てきた事とダンジョンスタンピードは全くの別件である。


 ここからスタンピードは収まる事がなかった。死力を尽くし、全力で戦うハンター達を興味無さそうに見る霧雨。


 1時間が経過し、ハンター達の魔力も底をつきかけている。



 「はぁはぁ……。もう無理。強すぎる。まだまだ終わりが見えない。」


 「ちくしょう。俺たちはもうここで死ぬのかよ…。」


 「なんで…こんな事に。」


 世界支配級としてアイドル的人気を誇り、国に甘やかされてきたS級ハンター達は、地獄の様なこの瞬間に耐え抜く気力は無かった。


 「なんて弱いのだよ。我の世界では子どもでももう少しまともに戦うのだよ。」


 そう言うと再び立ち上がり、刀を振るう。


 「万屍ばんし


 霧雨の言葉が空に消えた。


 万を優に越え始めた魔物の群れ。

それが一斉にうめき、叫ぶと頭が撥ね飛ばされる。


 「スキルに踊らされる内は半人前なのだよ。」


 霧雨はそういうと、また胡座をかき、地面へと座り込む。



万を越える魔物が死に、未曾有の大災害は終わったかに見えた。

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