第72話 譲れないもの
鹿羽サイモンは自身にとって最も大事なモノ、譲ってはいけないものを探す。
自分の命、彼女…はいなかった。
でも答えは直ぐに出た。
「僕は仲間の命や家族の命、そしてこの世界がこの国が大好きで1番大事なんだ。自分の命を差し出してでも救いたい。」
鹿羽サイモンは幼い頃、肺の持病で入退院を繰り返す生活を送って居た。スポーツはおろか、外に出ることもまともに出来ず、いつも一人だった。母と父に励まされ、支えられた。
小学生になる頃には、少しだけ病気が良くなってきて、学校にも行ける様になり、友達、親友と呼べる存在も出来た。
それでも病魔は時に牙を剥く。
咳が止まらず、息苦しくなり、その場でうずくまる。そんな時に助けてくれたのが友達だった。親友には励まされ、生きる希望を持つ事が出来た。
ある時に、偶然目の前にゲートが出現し、訳も分からないまま、しかし、入らなければならないという直感の下、侵入する事にした。
ゴブリンという子供ほどの身長の化け物を倒した。彼もまた天才と呼べる存在だった。
慎重に相手の動きを見て、対応し敵が持って居た棍棒を奪い、倒す事に成功する。
その時にユニークスキルを手に入れ、現在に至る。探索者となりステータスを得て、存在格が上がった事で体が強くなり、持病は治った。
「家族、仲間か…。ではサイモン、これから君には地獄を見てもらう。時空神権能『獄界』。」
時空神の空間支配により、これからサイモンは地獄の様な世界を経験する。
一種の催眠、洗脳。
仲間や家族を守る為に、サイモンは己の力の限界を超えるしか方法はない。
仲間、家族がダンジョンブレイクにより、ダンジョンから出現した魔物に襲われる。
支えられ、助けられてきた者達を彼は失ってしまう可能性に絶望する。
絶望はまだまだ続く。
父は片腕を失い、母は左目を失う。
仲間は喰われ、大勢の人が魔物によって殺される。自分の力では強い魔物には何も出来ない。
その光景に、膝から崩れ落ち、体は震え、目からは赤い涙が溢れる。
顔を手で覆い、その光景から逃避する様に。
「僕は、弱い…みんなを救いたい。でも僕の力じゃ何も出来ないじゃないか。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん…………。」
止めどなく溢れる涙。
顔がぐしゃぐしゃになる程に泣き叫び、己の力の無さを恨む。
「なんで…なんで、なんで弱いんだ。今まで何をしてたんだ僕は。皆を救えるほどの力を何故手に入れなかった。バカが。」
悲しみから怒りへと変わる。
恩義のある人達への感謝とそれを守れなかった自分への怒りが覚醒の条件となった。
「氷神魔技『氷滅の罪』‼︎」
第二次元へとユニークスキルが覚醒する。
氷神を憑依し、全てを凍てつかせる極寒が魔物を氷像と化す。
「やっ、やった!!家族の、仲間の仇を…。」
そこで意識が途切れた。
✳︎
「ここは…。」
見知らぬ部屋、体を包み込むベッドに心地よさを感じた。
「起きたか。おめでとう。少しは強くなったな。」
ふっと笑う不動。
意外そうな顔で不動の顔を見るサイモン。
「僕は強くなれたのでしょうか。無我夢中で何がなんだか。」
「あぁ。次のステージへ上がれたようだ。だがまだ足りない。更に強くなりたければお前は日本のダンジョンをソロでクリアしろ。そしてダンジョンボスを討伐し、コアを破壊しろ。目標は三つ。達成出来れば新しい世界を見られるだろう。」
「あ、ありがとうございます。それでみんなを守れるなら、強くなれるならやります。」
「あぁ。期待している。俺にはやらなければならない事がある。絶対にこの世界を守ってみせろ。」
第二次元へと覚醒し、それ以上のステージへと覚醒。そして世界屈指の探索者へと登り詰める鹿羽サイモンという熱き漢の話。
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