第69話 りょうの父

 雷光のダンジョン五階層。

比較的広めのフロアではあるが、直ぐに助けに行く事が出来た。


 浅い階層であったのも不幸中の幸いだった。

しかし、死ぬ間際ギリギリではあった為、少しでも助けに行くのが遅れていたら、りょうが悲しむ事になっていた。


 「助けていただきありがとうございます。

私は井畑和文いばたかずふみと申します。一応探索者をやっています。」


 「あぁ知っている。俺は不動だ。それと息子には感謝しろよ。りょうがアンタを助けて欲しいと涙を流しながら俺に懇願していたからな。地上へ戻ったらアンタがやるべき事は一つ。りょうに感謝の意を伝えて、思いきり抱きしめてやれ。」


 「えぇ分かっています。大切で賢く出来た息子です。まずは生きていた事を伝えて安心させてやりたいと思います。」


 その言葉を聞き、ふっと笑う不動に和文も笑いかける。


 「そうしてやれ。よしあと少しで地上だ。」


 一階層の地上へと繋がるゲートを潜り、目の前には爽やかな陽気を感じ、安堵する和文。

 眩しくも暖かい幸福の光に生きて戻れたという実感が湧いてくる。


 「やっと…やっと帰れる。」


 目から涙が溢れる。


 「おとーさーーん!!」


 逆光で見えないが、シルエットは大事な大事な愛息子である事は直ぐに分かった。


 目の前に来た息子を抱きしめた。

お互いに涙を流し、無事だった事に感謝した。


 「りょうごめんな。お父さん無茶しちゃった様だ。心配かけたな…。本当にありがとうな。」


 涙を袖で拭き取り、精一杯の笑顔でりょうは父に言葉を紡ぐ。


 「んーん。おとーさんが無事ならそれでいいんだ。心配だったけどおにーちゃんが助けてくれると信じてたから。ね!おにーちゃ……。」


 先程そこに居たのに振り返っても不動は居なかった。影も形もなく、どうやら立ち去ったみたいだというのは子供ながらにして分かった。


 和文はその意を汲み取った。

親子の対面を邪魔したくなかったのだろうと。


          ✳︎


 雷光のダンジョン四階層。

不動はある場所に目をつけていた。


 フロアの北部。

広めのフロアにも人が隠れられる箇所はある。


 「出てこい。」


 その箇所へと不動は威圧をすると、続々と人が出てきた。30人程で且つ、アウトサイダーである事は誰にでも分かる見た目をしている。


 「なんでバレちゃったんだ?お兄さん若いのに凄いねぇ。でも1人で来ちゃだめだよ。怖い思いをしたくなければ。へへ。」


 「くくくく。間違いない。兄貴やっちまいますか。若いが、着ている装備品はかなり上物ですぜ。」


 「へははは。そうだそうだ。どうせダンジョン内だ殺してもバレねぇ。」


 30人程の男たちがヘラヘラと笑い出す。

数とは力である事は間違いない。


 一つ間違いがあるとするならば、脅す相手だけ。


 「モノども!!やっちまえ!!」


 各々武器を出して、不動へと斬りかかる。


 一瞬。


 ならず者の肉体が弾け飛んだ。

辺りは血で汚れ、リーダーを残して全員が一斉に何が起こったのか理解する事なく死に絶えた。


 「な、な、何が!?起きた!!」


 目を見開き信じられないモノを見たという反応、それが瞬時に恐怖へと変わった。


 「お前らがこのダンジョンへ挑戦する探索者へ攻撃している事は分かった。だから始末させてもらう。」


 口をパクパクさせ、口の端に泡を付けるならず者のリーダー。


 力では絶対に敵わないと理解したリーダーは脅す様にこう言った。


 「お、お、俺たちが誰か知ってんのか!!俺たちは犯罪組織『シャクラ』の一味だぞ!!俺たちに何かあったら組織が黙っちゃいねぇぞ!!」


 口の泡を飛ばして怒声を上げる。


 「犯罪組織『シャクラ』ね。」

 

 ビビったと勘違いしたならず者は強気で不動へと話しかけた。


 「へへへ。怖いか。装備品と有り金を置いていくなら伝えずにいてやる。」


 「いやいい。どうせ潰すからな。それにお前らは、りょうの父の危機の原因だしな。」


 「りょう?知らねーな。それに組織を潰すだってぇ?げははは!!無理に決まってるだろ!!」


 馬鹿にする様に笑うならず者。


 威圧を込め、ならず者へと最後の言葉を吐いた。


 「俺に不可能はない。俺が潰すと言ったら潰す。例え相手が誰であろうと。」


 その一言を放ち、ならず者へと指で線を描く。


 「あ、あ、ありょ?」


 ならず者の体は縦横にズレて、血を吹き出し、肉の塊と化した。





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