第62話 準決勝:九十九VS不動

 絶対絶命からの逆転劇に会場は大いに盛り上がった。


 そして、準決勝2組目、九十九VS不動。

この強者二人の戦いに会場の全員が気を張り、その動向に集中する。


 「不動さん、今回は胸を借りるつもりで戦わせてもらいますネェ。」


 「あぁ。風の。」


 「あ、あぁそうです。風の太刀の能力。今までの戦いは見てもらえたんですかネェ。」


 「見るに堪えない闘争とも呼べないお遊戯を?」


 「お、お遊戯…。」


 「お前らはスキルを何だと思っている。馬鹿正直に工夫もなく、ただ使うだけ。猿でも出来るだろう。まぁ、多少マシな奴も居たが。」


 「スキルはただの能力でしょう。それ以上でもそれ以下でも無い。上手く使い熟せてると思いますけどネェ。」


 「そうか。お前の能力は化けるかもしれないと思ってたが、使ってる本人がこれでは宝の持ち腐れだな。」


 「な、なんですか。これ以上の能力…とは。」


 「口頭で教えても意味がない。教えてやるから武闘場へ来い。」


 二人は武闘場へと上がり、お互いに見やる。

包まれた緊張感は凄まじく、そして、九十九は嬉しさのあまりニヤニヤしている。


 「では始めましょう。準決勝2組目、凄絶な風の太刀で相手を切り刻んだ九十九探索者。対して、最強が最強である為の証明をまた見せてくれるのか!!阿空不動探索者。両者準備は良いですか!?レディーーー!!ファイッッッ!!!」


 まずは小手調べに無数の風の太刀を空に展開する九十九。


 一斉に不動のもとへと飛び、その鋭利な刃が不動へと襲いかかる。


 「児戯だな。」


 その一言を発した直後、全ての風の太刀が粉々に砕け散る。


 「は、は?なんで?」


 九十九は理解ができない。


 何をどうすればこんな状態になるのか。


 不可視だぞと言いたげなその目は驚きのあまり大きく開く。


 「これがお前達が言うユニークスキルだ。」


 不動は風魔法で風の太刀を再現した。

不可視の斬撃を放ち、わざと九十九の周りへと外す。


 地面は鋭利な刃物で切れたような跡がつく。

九十九が以前に作り出した跡そのものだった。


 「な、なんで。」


 「お前達が使っている能力はユニークスキルのほんの一端に過ぎん。あとは自分で工夫し、掴むんだな。」


 九十九は混乱しながらも、2回戦で見せた無数の風の太刀を一太刀に纏めた技を不動に繰り出す。


 「これも同じだな。まだ初期能力。次元を越えろ。」


 不動も風魔法で同様にそして寸分違わない威力で九十九のスキルを打ち消す。


 「初期能力ではいずれ来る荒波は越えられない。精進せよ。でなければ、その命は簡単に奪われる。」


 九十九は何が何だか分からなくなる。今までこのスキルがあれば大抵の敵は倒せたし、魔物も仕留められた。


 だが、目の前にいるこの男にはまるで通用しない。


 それどころか積み上げてきた努力が一瞬で再現された。


 今までの人生と重なる。


一位じゃなきゃいけないのに。一位じゃなきゃご飯も食べられない。外にも出してもらえない。暗い所は嫌だ。もうやめてよ母さん。殴らないでよ父さん。助けてよ。もっと頑張るから。頑張って一位になるから。助けて。















助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて。


 九十九の憎悪と嫉妬の炎が燃え盛る。

その目は闇より深く、漆黒になる。


 ユニークスキル:第二次元。

神格をその身に降ろし、依代となる。

その能力は格段に上昇し、人間の中でも最高峰の能力を手に入れる。


 「少しはマシになったか。」


 九十九は風神化し、神風による権能を使い、風の太刀を風の神器へと昇格させる。


 「風神魔技『黄泉風満月ヨミカゼミツルツキ』。」


 神気を帯びた風が吹く。

上空には金色の満月のような風の塊が乱気流となって、その綺麗な見た目とは真逆の凶悪な攻撃性能を感じる。


 触れればその身を残さない程に切り刻まれるのは明白。


 九十九の憎悪の塊が不動へ牙をむける。


 「神気を扱えるだけだな。まだまだ深淵には程遠い。」

 

 不動は刀剣を無限収納から取り出す。


 「神気とはこう使うんだよ。」


 居合一閃。


 その一太刀に込められた神気は、過去の不動からしても言葉に出来ないほどの差が見られた。


 漆黒のそれは、金色の風を食い尽くし、霧散し消えた。


 九十九は己と不動の間に存在するあまりの差に愕然とし、己に失望し、そして不動を人生の目標へと変えた。


 「終わろうか。風神魔技『黄泉風満月ヨミカゼミツルツキ』。」


 不動は今見た九十九の技を完全にモノにし、再現した。


 天に選ばれた闘神のみが出来る神の如き、離れ業。


 その威力は九十九の比ではない。

九十九の全てを飲み込み、消失させた。

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