第60話 九十九という男
これまでの戦いで圧倒的な力差を見せつけた。一回戦では対戦相手を素手で細切れにし、探索者としての人生を終わらせた。
二回戦では、実力派人気女性探索者を相手にその場から一歩たりとも動く事はなく、謎の指弾で相手の頭を撃ち抜くという離れ業。
誰一人として理解出来ない。
3回戦の相手である九十九悠介だけは何故かワクワクした表情で不動を見ていた。
「くっそ痺れるネェ〜。絶対負けると思うけど、どれだけ一位に通用するか試してみたいネェ………。」
ワクワク顔なら一転、野心溢れる表情へと変わっていた。
✳︎
会場内はCMの為、一旦カメラはストップしている。
探索者同士の交流はこの幕間のような時間に行われる。
「不動さん、僕の名前は火神灰人と申します。」
「あぁ。火の。」
「はは。その通りです。あの、どうしてそんなに強いんですか?言っては失礼かもしれませんが、かなり異常な程だと思うんです。」
「異常ね。俺から言わせてもらえるならお前達が弱すぎるだけだと思うがな。」
「あなたから見たらそうなりますよね。でもそんなに強くて何を目指すんですか?」
「そんなもの強ければ、より強い者と戦えるからだ。限界なんぞない。強くなれば更に強い奴が現れる。そして大切なモノを守る為には必要な事だ。」
「大切な……。家族とか恋人とかですか?」
「さぁな。」
「分かりました。あなたには絶対に勝つ事は出来ないと思っています。でも、その行き着く先を戦いを通して感じられるなら全力であなたを倒す為に戦います。」
「そうか。」
「失礼しました。」
✳︎
火神と不動の会話を近くで聞いていた九十九は、疼く闘志を抑えることに必死になっていた。
九十九悠介。
普段は飄々としながらもその頭の中は成り上がる事を強く考えている。
ランキング制度という目に見てわかる強さの基準は、ハンターズギルドからの待遇も各段に変わってくる。
自身も国家戦力級探索者という選ばれた存在であるが、上を見上げれば自身より上位の存在が数十人も居る。
その事に、そんな許されざる現実に九十九は激しい憎悪を燃やす。
九十九の過去は悲惨の一言に尽きる。
両親からの学力、スポーツ、習い事の成績への圧力。
日に日に増していく暴力と罵声。
何故お前はこんな事も出来ないのか。
何故一位じゃないのか。
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。
日常的にご飯が与えられない事も珍しくなかった。
常に一位でないといけないという洗脳に過剰なストレスを与えられていた。
それは自分より上位者への嫉妬と憎悪に自分自身が絡み付かれ、苦しめられ、その心を燃やされる。
そんな中、ダンジョンという未知の領域が出現し、スキルや存在格、そしてランキング制度が人類に与えられた。
最初は関心がなかった。
しかしふと思った。
探索者として世界で1番になれたなら両親は褒めてくれるかもしれないと。
足掻き続けた自分の人生に光が差し込むのではないかと。
ウンザリする程のしょうもない人生に希望が見出されるのではないかと。
幸いな事にユニークスキルというアドバンテージを得た。
それも中々に強力で殺意溢れる凶悪な能力。
風の太刀という不可視の権能。
そして、ハンターズバトルトーナメントという大会で世界一位と戦う機会を得た。
今はまだ勝てない。
けれど、一位と自分への物差しにはなる。
どれくらい距離があるのか。
どれほど努力すれば良いのか。
疼く。
全力で勝ちに行く。
それが一位への栄光の道なのだから。
✳︎
火神と白樺が武闘場で向き合う。
その眼差しは真剣の様に鋭く、全力を持って相手を叩き潰さんとす。
「準決勝。1組目。いよいよ始まります。火神探索者と白樺探索者。激闘に期待しましょう!!!両者、準備は良いですか!?レディーーーーー!ファイッッッ!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます