第59話 戦女神の剣舞-2
あおいの本領である剣技。
それは華麗で柔軟な剣舞である。
数々の男を魅了し、屈服させてきた柔の剣。
国家戦力級探索者としてその名に恥じぬ活躍に、世間は虜になった。
「柔の剣か。そんな弱者が使う剣技に興味はない。」
完全なる見下し。圧倒的上位者としてのプライド。それに見合うだけの実力差があった。
あおいの全ての剣技をその場から一歩たりとも動く事なく、避けることすらせず、その剛剣による力のみで軽く対処した。
空を駆け、頭上からの攻撃。
あおいの渾身の突きが不動を襲う。
その剣先を不動は魔力を纏った右手人差し指一本で止めた。
剣すら必要ないとばかりに、剣を無限収納へとしまう。
「失望した。戦女神と聞いて少しは期待したんだがな。所詮はこの程度。」
手刀による飛斬。
薔薇崎を細切れにしたその技をあおいに向けて放つ。
試しに一撃。
あおいはその一撃を何とか避ける。
目には見えない飛斬を戦女神としての直感がそうさせた。
「やるな。これはどうだ?」
不動の左手がブレ、四方八方から飛斬があおいを襲う。
剣で何とかしようとするが、全ての飛斬を打ち落とす事は今の彼女には不可能だった。
剣は半ばから折れ、全身に深い切り傷が出来た。
だが、心はまだ諦めてはいない。
何とか立ち上がろうとするが……。
「結局、俺を一歩も動かす事は出来なかったな。」
左手を握り、親指を強く弾く。
圧倒的な力で弾き出された空気の弾丸があおいの頭を貫く。
「弟子にはしない。出直して来るんだな。」
審判AIによる勝負の判定。
勝者、阿空不動のコールが鳴る。
しかし、場内は静まり返る。
日本の人気探索者の1人である羽柴あおいの衝撃的なKOが脳裏から離れない。
声を出す事も出来ない。
目は見開かれ、息をする事も忘れる。
身は凍り、やがて脳が反芻するように今の光景を思い浮かべる。
指で空気を押し出し、人の頭を撃ち抜く。
意味がわからない。
いや、その前に何か斬撃の様な攻撃があったか?
ただ指を刺しただけ。
繰り返し思い出しても、納得出来ない。理解を脳が拒絶する。
その非現実的な現実にまるでファンタジーの世界に入り込んだかの様に思えて、会場は一気に盛り上がった。
その熱意は探索者という人間を超越した存在への憧れに変わっていた。
「し、衝撃的過ぎて、一瞬息をするのを忘れてしまいました。勝者、阿空不動!!!」
会場から溢れんばかりの拍手を受け、興味無さそうに不動は武闘場から去っていった。
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