空か海か

よくする小学生レベルの妄想で、「鳥か魚どっちかの能力が貰えるならどっちがいいか」と言うのがある。



昔は絶対に鳥派だった。水中で息が出来るのも魅力的ではあるが、飛べる、というカードの強さはやっぱり捨てがたいし、色々と便利そうだし、何よりビジュアルがかっこいい。鳥の羽根が生えてしまうと日常生活に支障をきたす場面もあるだろうが、その点は魚のほうが影響は深刻じゃないか。何しろ、人魚みたいに下半身魚になるか、半魚人のように全身鱗に覆われてしまうか、どちらかになってしまう可能性が高い。日常生活に支障レベルの話ではなくなる。となれば鳥だ。鳥一択だ。




しかし、ある時気がついた。






「エラさえあればいいんじゃないか」






そうだ、エラだけだったら、首のところに軽く切れ込みを入れるだけでOKな気がする。内臓の配置も変わってくる可能性はあるが、この際そこはもう気にしないでおこう。問題は見た目だ。多少気持ち悪いかもしれないが、常にタートルネックを着てれば解決だし、閉じていればまずバレないだろう。そうなると、羽根の邪魔さが圧倒的に際立ってくる。




 そもそも、羽根はそこまで便利だろうか。そりゃ飛べれば楽しいだろうし、移動にも役立つかもしれない。でもいざ本当に飛ぶとなった時には、かなりの思い切りが必要だ。

何しろ目立ってしょうがない。街中で飛んだりした日には、飛行中の姿を写真や動画にとられ、ネットに拡散される事は避けられないだろう。かといってあまり高度を上げれば苦しいだろうし、飛行機などから目撃されないとも限らない。

あとよく分からないけど、何かしらの法に触れそうな気がする。それこそ、飛行機の航路を塞いだとか。調子に乗ってどこか国境付近など飛ぼうものなら、最悪撃ち落とされる。




 移動だって、考えてみれば電車の方が楽かもしれない。飛ぶのは自力だ。結局歩いてるのと変わらない。疲れるし、人間サイズの生き物を浮かす羽根って相当の大きさと筋力が必要だろう。高いところから落下するなどの緊急時以外には役に立たないし、それだって慣れてなければ咄嗟に飛べるか分からない。考えれば考えるほど、羽根は要らない気がしてきた。



その点、エラはいい。目立たないし、プールやお風呂など、日常レベルでひっそりと楽しむ事が出来る。湯船に潜って水中からの視点を延々と眺めるのは、地味に楽しそうだ。よく映画などで、敵に捕まった時に水中に頭を押し付けられる拷問があるが、エラさえあれば怖くない。



 何よりも、酸素ボンベなしでダイビングが可能だ。これは嬉しい。飛ぶよりよっぽど現実的だ。万が一沖に流されてしまっても、余裕を持って岸を目指せる。サメなどが少し怖いが、場所選びさえ慎重に行えば、まあ大丈夫だと思う。



そうやって、水中で息が出来る事に油断して長時間海の中にいた結果、低体温症で死ぬのだろう。



 私はそういうところがある

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