第8話 二子神淳史の乱闘
元教え子の金子ひなたから電話が入った。
「先生、大変だよ。紗理奈がやられちゃうよ」
俺のために男と別れようとしたら、逆上され、夜の公園に呼び出されたらしい。
「どこだ、すぐ行く」
H公園に夜十時、あと十分しかない。すぐさま俺は家を飛び出し、タクシーを拾った。
二十分ほどでH公園に着くと、公園の入り口にひなたを見つけた。紗理奈は既にひとりでストーカー野郎が指定した場所へ向かったそうだ。俺は、案内板で場所を確認し、駆けだした。
林の中で男三人に囲まれている紗理奈を発見した。一人は金属バットを持っている。
ひっそりとした深夜の公園に、元彼のストーカー野郎らしき男の声が響く。
「三人で一発ずつやって、それで勘弁してやるよ。写真はネットにばらまくけどな。ま、顔はモザイクかけといてやるよ」
それでも平然とする紗理奈に、男が切れた。
「だいたいお前のようなヤリマンが俺様を振ろうなんざ、百年早いんだよ!とことん後悔させてやるからな!」
紗理奈が、可憐な見た目からは想像もつかない、小気味よい啖呵を切った。
「たとえヤリマンでも、てめーらみたいなクズにやらせるまんこは持ってねーよ!」
俺は思わず噴出してしまった。やっぱりこの娘は最高だ。
かっとなって紗理奈を地面に押し倒したストーカー野郎に、俺は全力ダッシュで飛び蹴りを食らわせた。虚を突かれた男が吹っ飛ぶ。
一人対三人だ。こいつには当分寝ててもらおう。俺は素早く立ち上がると、まだ転がっている男の腹に思いっきり蹴りを入れた。
「なんだ、てめーは」と、別の男が金属バットを振り上げた。
予想外の展開にびっくりする紗理奈に「お前は逃げろ。早く!」と告げると、すかさずバットの男にタックルを食らわせた。
素早くマウントポジションを取り、顔面にパンチを繰り出すと、男はバットを放り出して腕で顔をガードした。もう一人が背中を蹴ってくる。痛いがそっちは後回し、こいつを沈めれば一対一と、ガードの上から容赦なくパンチを振った。
その時、ストーカー野郎が「よくもやりやがったな」と怒声を発しながら立ち上がった。
「まずい、やられる」と思ったその瞬間、素早くバットを拾った紗理奈が、男に殴りかかった。思い切り 振り回したバットがガードした左腕ごとストーカー野郎の脇腹にヒット、男は悲鳴を上げて昏倒する。紗理奈がさらに殴りかかろうとしたところで、パトカーのサイレンが聞こえた
俺の背中を蹴っていた男は、鼻血を流す男を助け起こして逃げ去り、悶絶するストーカー野郎はパトカーが呼んだ救急車に乗せられた。
俺は、二人そろって乗せられたパトカーの中で紗理奈に言った。
「逃げろって言ったのに、何で逃げなかった」
「そっちこそなんで来たのよ。私がバットを拾わなかったら大怪我してたわよ」と紗理奈が言い返す。
「輪姦されて写真をネットにばらまかれるところだったんだぞ」
「き、聞いてたのっ。どこからっ」
「クズにやらせるまんこは持ってないんだろ。好きな女がそういうんだったら、俺は必ず助けに来るよ」
突然紗理奈の眼から涙があふれた。
「怖かった、本当はすごく怖かったんだよ」
俺は、泣きじゃくる紗理奈の肩を優しく抱いた。
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