第7話 佐藤紗理奈の決心
ねこちゃんが「勉強を教えてほしい」と、元カテキョを彼の自宅近くのファミレスに呼び出し、私も同席した。
品行は悪いが学校の成績はそこそこ良い私は、終始良い生徒を装った。説明にタイミングよく相槌を打ち、的を射た質問もした。
「今日は本当にありがとうございました。教え方がとても分かりやすかったです」と丁寧にお礼を言い、
「私も、淳史さんみたいなお兄さんがいたらよかったのにな」と、得意の上目使いで付け加え、さらに、数学を教えてほしいとお願いし、私一人で彼と会う約束を取り付けた。
二回目の勉強会が終わった後、観たい映画があるので一緒に行ってもらえませんかと誘ってみたが、これはあっさりスルーされた。
三回目の勉強会で「淳史さんが好きです。私の初めてを貰ってください」と直球を投げてみたが、これも「子供が何ませたこと言ってんの」と完全スルーされた。
その夜ミタオとラブホへ行ったが、全くイケなかった。
その翌日、私ははいつものようにねこちゃんと屋上でお弁当を食べていた。
「そうかー、紗理奈でもダメか。でもさー、なんだかんだ言って二人で会ってるよね。それってデートだよね」
「でも、勉強だけだよ。おかげで調子狂っちゃって、ミタオとラブホ行ったのに、奴の顔がちらついて全然イケなかったんだよ」
私のことばに、ねこちゃんが「んっ?」と反応した。
「ねえ、紗理奈、それって恋なんじゃないの」
「へっ、そんな、私に限って、まさか」
「そのまさかだよ、佐藤紗理奈は二子神淳史に恋をしてるんだよ」
ねこちゃんが変なことを言うから、四回目のお勉強会は、彼のことを意識してドキドキしてしまった。
「よく出来ている、頑張ったね」と頭をポンポンされ、子供扱いに腹が立つかと思ったら、なぜかほんわかした気分になってしまい、
「お前、マジかよ!」と自分で自分に突っ込んでしまった。
もうミタオとセックスする気になれそうにないので別れることにした。
「好きな人ができたので別れる」とメールすると、すぐに返事が来た。
「それってこの俺より好きってこと? ありえないだろ!どんな奴だよ!」
ついT大生と返事をしたら、プライドが傷ついたのか、ミタオは逆上した。
「そんなの嘘だ、嘘じゃないなら俺の前に連れてこい。じゃなきゃ絶対別れてやらない」
会わせたら「こいつは俺とヤリまくっていた」とばらしてぶち壊すつもりなんだろう。所詮その程度の男だとは思っていた。
こんなことで彼に迷惑をかけるわけにはいかないし、そもそも来てくれるはずもない。
きっぱり断ると「土下座して謝れ」という。私は、夜の公園に呼び出されてしまった。
「なにそれ、危ないよ、紗理奈、絶対行っちゃだめだよ」とねこちゃん。
危ないのは分かっている。でも、淳史さんに対する自分の気持ちと向き合うためには、ミタオと決着をつけなければならない。
私の決心が固いと知ると、ねこちゃんが公園の入り口まで付き添ってくれた。
「ねこちゃんはここで待っていて。もし三十分経っても戻ってこなかったら、警察に連絡して」
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