第2話 冴島遥の診察
私のクリニックに男子高校生の患者とは珍しい。なんでも心因で変なものが見えるようになったとか。
彼から症状についての説明を受けた。キャリアの浅い私ではあるが、女性の周りにピンクのオーラが見えるなどど、そんな症例は寡聞にして聞いたことがない。
いつから発症したのか、きっかけに心当たりはと聞くと、彼は痴漢冤罪事件の顛末を語った。
「心療内科って、カウンセリングをしてその心因を探るみたいなイメージがあるけど、基本は内科と一緒で、症状を聞いて、それにあった薬を処方するの。でも、君のその症状、私が知る限り前例がない。だから薬を処方しようがないの」
生活に支障が出ているわけではないので、とりあえず一か月様子を見て、改善しない時は別のアプローチを考えるということで、その日の診療を終了した。
案の定、彼の症状は一か月後も改善していなかった。
あまりに荒唐無稽な信じ難い話だけど、私には彼の症状について一つの仮説があった。
私は、この爽やかな青年に個人的な興味を感じ、もっと彼のいろんなことを知ってみたいとも思っていた。
「可能性の一つとして、個人的に試してみたいことがあるのだけど、いいかな」
それは、治療ではなく、彼の経験した痴漢事件よりもさらに大胆な手法を用いる臨床試験であり、私自ら参加する人体実験でもあった。
「はい、よろしくお願いします、先生」
そんなこととは知るよしもない淳史くんに、私は、今日の診療時間終了後にもう一度ここに来るように言った。
「ここから先は診療じゃなくてプライベート。私のことは、先生じゃなくって遥さんって呼んでね」
私は、夜の七時過ぎに再訪した淳史くんをひじ掛け付きの椅子に座らせた。
「さて、私の周りに何か見えるかな」
「あれ、少しだけオーラが見えるような気がします、せんせ、、、遥さん」
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