紗理奈の初恋模様
廣丸 豪
第1話 二子神淳史の憤慨
俺は二子神淳史、高校二年生だ。
俺が通学に使っている地下鉄は、ターミナル駅で満員の乗客を乗せて駅に到着する。
その日も電車は混雑していた。乗車してほどなく、女性の手が俺の股間をまさぐってきた。手の持ち主は、俺の隣に立つ、二十代後半くらいの女性だ。どう対処するか躊躇しているうちに、布越しに感じる彼女の巧みな指技に、俺の若い身体が反応してしまった。
「あの、止めていただけますか」
俺は、意を決して彼女の耳にささやきかけたが、彼女は意に介さず、さらに俺の制服のジッパーを引き下げた。半立ち状態だった僕のものがジッパーの間から布地を押し上げた。
あわてて俺は、強引に体をよじって彼女に背を向けた、その時だった。
「何をやっているんだ」
サラリーマン風の男が俺に怒声を浴びせた。怒張したものを見せようとしている露出狂と思われたのだと察した。周囲の視線が僕に集まった。
女性は、口を「ごめんなさい」と動かし、下を向いてしまった。どうやらカミングアウトする気はないらしい。
「いや、違うんです」と一応言ってみたが、彼女が沈黙を守っている限り信じてもらえるはずもない。
その時、電車がオフィス街の駅に到着した。すかさず俺は満員の乗客がドア口に向かう流れに乗って電車を降りた。
一目散に改札を抜け、出口を駆け上がり、近くの大きな公園まで走った。ようやくベンチに腰を下ろすと、理不尽な目にあった怒り、悔しさが込み上げてきた。
もう二度とこんな目はごめんだ。
「畜生、スケベ女を見分ける方法は無いのか」と思った時に、頭の中で何かがはじけるのを感じた。
その翌日、ガールフレンドと渋谷で映画を見た帰り道だった。腕を組んで道玄坂を上っていくカップルの女性が、ピンク色のオーラを発しているように見えたのだ。
それも一人だけではない。何組ものカップルの女性が、だ。
「ピンク色のあれは何だろう」と彼女に聞いてみたが、何も見えないと怪訝な顔で返された。
「これからラブホに行く人たちだよね。あまりじろじろ見ない方がいいよ」
その後も、ピンクのオーラが見え続けた。
眼科で検査を受けたが異常は見つからず、精神的なものかもしれないということになり、心療内科のクリニックを紹介された。
初めて訪れたクリニックで二十代後半と思しき美しい女医さんと対面した。彼女は自分の前の椅子に着席を促し、名前の入った胸のプレートを俺の方にかざした。
「あなたの診察を担当する、心療内科医の冴島です。よろしくね」
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