蒲公英

yui-yui

蒲公英

 昔から空が好きだ。

 空を見るのが好きだった。

 嬉しいことがあると空を見上げた。

 悲しいことがあると空を見上げた。

 特に理由は見当たらない。

 別段空から声が聞こえてくるなどと言う妄想癖もないが、そのときの自分の気持ちに対しての、空の存在というものを考えることが好きだったのかもしれない。

 雄大な空の存在と、自分の今の気持ちとを比べるのが好きだったのかもしれない。

 きっと明確な理由はあつる自身も知らないところにあるのだろう。


 沢本さわもと充はほんの数分前に恋人と別れた。

 そして空を見上げていた。その瞳は涙が溢れそうになるほど潤んでいて、涙を流さんとするために空を見上げているかのようだった。

 春も終わりを告げているのか、蒲公英たんぽぽの種子が強く吹いた一陣の風に舞い上がった。

 空の下でふわふわと浮かぶ蒲公英の種子を見て、充は何かに似ているな、とぼんやりそんなことを考えた。


 別れは必然だったのかもしれない。

 どちらともなく、距離を開けていったのはお互いに判っていたことだった。だからどうしたという訳でもない。

 別れが悲しくて溢れてきた涙ではないことくらい、自分でも判っていた。

 彼女を愛した時間が終わりを告げた。そのことが悲しかったのだ、と思う。

 こらえられなくなったように、上を向いたままの充の目から涙が零れ落ちた。

 その涙の本当の理由は、まだ判らなかった。


「あっつるー!」

 充という字からは中々出てこない『あつる』という名は色々な人間に好かれているようだった。

 自分でも気に入っているので良いことだと思っている。大学を出て、コンピュータ関連の仕事をしている充は二六歳。久しぶりの休日に散歩でもしてみようかと、近くの河川敷まで歩いている途中の充に声をかけたのは、中学時代からの親友である川上明日美かわかみあすみという女性だ。

「や、明日美。いっつも元気だねぇ」

 仲間内でも「活性剤」だとか「元気の元」だとか言われている、とにかく元気がトレードマークという人物だ。恐らく充が恋人と別れたのをどこからか聞きつけたのだろう。もうあれから一週間も経つのだから、知れ渡っていても不思議はない。それに充自身、隠していた訳でもないのだ。明日美と顔を合わせていなかったのはほんの偶然に過ぎない。

「なによあっちー、別れたんだって?」

 いきなりストレートに訊いて来た明日美に充は笑顔を返した。遠慮も何もあったものではないが、このストレートさが明日美の美徳、と言っても過言ではない。

「あぁ、まぁ仕方がなかったんだと思うよ。ボクも彼女もね。ただ、悪いのは……」

「どっちが悪かったか、なんて誰も聞いてないわよ。ただ別れたのか訊いただけ、アタシは」

 充の言葉を遮って明日美は人差し指を充に突きつけた。

「別れたよ」

「知ってる」

「……」

 相変わらず訳の判らないテンションだな、と充はまた笑顔になった。

「どこ行くの?充君」

 しかも充のことを様々な呼び方で呼ぶ。見た目の美しさもさることながら明日美の奇妙なテンションと屈託のない性格は男女分け隔てなく多くの人に好かれている。明日美に想いを寄せて散っていった男の数は一人や二人ではないことを充は知っている。

「河川敷。散歩しようかなーって」

「あははは!なに爺様入ってんのよー」

「いや、いつも老体に鞭打って働いてるからね。趣味も必然的に老化していくんだよ。そのうち盆栽でも始めようかと思ってるところさ」

 失恋のショックはないと言えば嘘になるが、それほどしつこく引きずっている訳ではないように思うし、この後もこの失恋が原因で何もかものやる気が起きないなどということはなさそうだった。

 それはこの一連の会話で恐らく明日美にも伝わったであろう。落ち込んでいたら元気を出させてやろうと、心配して来てくれたのだ。昔からそういう女だった。まず人の笑顔のために動くような、そんな女だ。時として自分を犠牲にしてまでそれをやってしまう。

 充が風に泳ぐ蒲公英の種子ならば、明日美はどっしりと地面に根を張り、朗らかな笑顔を見せる蒲公英の花なのだろう。強い風の中でも飛ばされず、夕焼けを見て、雨をその身に受ける。明日美のように常に自然体でいられたならどんなに良いことだろう。

「相変わらず変なテンションねえ」

「明日美に言われたら御仕舞いかな」

 そう笑いながら充は言うと、ゆっくりと歩き出した。

「それどういう意味よ」

「言葉通りだよ。テンションの妙を語ったら明日美に勝てる人は中々いないと思うけどね」

「充は充分アタシに勝ってると思うけど。ときに充爺様、アタシも爺様のお散歩に付き合ってもよろしいかしら」

 充について行きながら明日美は言った。

「じゃあ明日美も婆様だね」

 ありがたい気持ちで充は笑顔を返した。一人きりで生きていけると思うほど愚かではないが、誰かに依存しなければ生きて行けないほど甘い人間でもないと思っていた。たかが失恋で、と思ってはいたものの、流石に失恋から数日経ったという状況の変化だけでこうも人恋しくなるものなのか。誰かに話を聞いてもらいたいだとか、そう言うことではないのだが、誰か一緒にいてくれる、それだけで安心する。そんな自分勝手さと傲慢な思いが充の中で交錯していた。

「あら、失礼ね、充爺様のカワイイ孫にしておいてくれる」

「人を爺様呼ばわりしておいて言う台詞じゃないね、明日美」

「仕方ないわねぇ。じゃあアタシも盆栽始めようかしら」

「それじゃあ、昂英社から出てる『初めての盆栽ABC』っていう本をお勧めするよ」

「……どこにそんなもの売ってたのよ」

「実はボクも見たことがない」

「……」


 ひとしきり土手を歩いた後、充と明日美の二人は商店街の外れにある喫茶店に腰を落ちつけた。

 広すぎない店内は出窓に水色のカーテンと小さな鉢植えをしつらえた定員四人のテーブル席が二つあり、その奥の窓側の反対にも二つテーブル席がある。それに六人が座れるカウンター席。

 二人は四人掛けの席に着いて、淹れたてのコーヒーを飲んでいた。店内にはさりげなく落ち着いたピアノの旋律が流れている。ほどよく疲れた足を休めるのにはピッタリな曲だ。

「しかし明日美も物好きだね」

「じゃなきゃやっていけない性格に生まれちゃったものは仕方ないわよね。特にそういう物好きなアタシの好奇心を一番くすぐるのが充なんだから、充にそんなこと言われるのはお門違いって訳なのよ、実は」

「そりゃ知らなかった。照れていいのか恥ずべきことなのか、中々複雑なところだね」

「光栄に思ってくれていいわよ」

「お褒めに預かり恐悦至極……ってのもなんか違うかな」

 あえて無感動を装って充は言った。無論冗談だ。

「あら、女王様に対して随分心のこもってない言葉を返すのねぇ」

「自分で女王様とか言う人も珍しいよね」

 明日美の言葉に笑顔を浮かべながら、充は恐らく話のきっかけになるであろう、煙草をポケットから取り出し火をつけた。

「あら、止めたって聞いた……ごめん」

 途中まで言いかけて、何かを思い出したように言葉をとぎると、明日美は失敗したとばかりに窓の外へ目を向けた。

「いや、いいんだよ。別に誰に話したかった訳でもないと思ってたはずなのにね。わざわざこうしてきっかけを作るなんて、結局誰かに聞いて欲しいってことなんだよ」

 自分の行動にさえ責任も持てず、確約もできない。ただ、それを弱いだとか依存しているだとか、自分自身を糾弾するつもりも今の充にはなかった。言ってみれば、なるようになれという酷く乱暴で投げやりな心境なのかもしれない。

「わざとって訳?随分と肝も据わってるみたいね」

「さて、そう言い切れたものなのかな」

 自嘲気味に充は笑って、コーヒーに口をつける。

「まぁいいわよ。話す気があるんなら聞くしね。ないんなら何も訊かないし」

「我侭に付き合ってくれるって訳だ」

「あんたはいつも我侭だけど」

 ふふふ、と笑いながら明日美は言った。その笑顔に充の気持ちも心なしか軽くなって行くような気がした。

「だからこそ、かな。別れることになったのは」

「それは充分にありえるかも。充の我侭に付き合える人間なんてそうそういるもんじゃないもの。この女王様だっていつもイッパイイッパイよ」

 明日美の言葉に充は神妙な顔を作ると、煙草を一口だけ吸って火をもみ消した。

 かたかたと、銀色の灰皿がガラスのテーブルの上で軽くステップする。それを見つめながら充は更に言葉を紡いだ。

「心地良かったんだ。彼女との時間が。言葉を交わすのが何よりの時間だった。ボクにないものを彼女は沢山持っていたし、その逆も然り。ただそれだけを求めすぎたのが失敗だったのかもしれない」

 それは身体を重ねるよりも大切な、お互いを確かめ合える時間だと充は信じていた。いや、そう思い込んでいたのだ。

「バカね」

「今思うと本当にね。のぼせ上がってたんだと思うよ」

 言葉だけでも充分にお互いを解り合えると思っていた。男と女が身体を重ねることに関して嫌悪を感じている訳ではない。しかしそれをしないことによって自分達は特別なのだ、と思い込もうとしていたのかもしれなかった。今となっては明確な答えは出せなくなってしまったが。

 そして、彼女が何よりも充の抱擁を欲していたことを、充は気付かないでいたのだ。

 今思えば意識的に心のどこかに追いやっていたのだろう。

「その彼女だって女なんだから」

「それを忘れたがっていたのかもしれない。僕は彼女の女という部分以外に依存していたんだよ、きっと。何気ない会話でも充分に伝わっていたのは間違いなかったんだ。ただ、それだけに固執したボクの考え方がおかしかったんだ」

 結局のところそれが男女の関係であったのかどうか、今思うと随分と疑問だった。手をつないだり、キスを交わしたり、そういうことはしなかった訳ではない。それらの行為が恋人らしい行為だというのならば、充達は充分に恋人同士であっただろう。露骨にお互いを求め合ったことは一度としてなかったというだけで。

「依存、ね。ようするに甘えなんじゃないの?結局彼女を認めながら、どこかで拒絶していた部分があった、とか」

「そうかもしれない。いや、そうだね。僕はあの自分だけの心地良さに甘えて、彼女をないがしろにしていたんだ。もしかしたらそれは意識的にやっていたことなのかもしれない」

 別れたくない。最初に別れ話を告げられたときに、真っ先にそう思えなかった時点で、その前から彼女を女として見ていなかったのかもしれなかった。

「それだけ判れば充分なんじゃないの。もう終わったことなんだし、今更穿り返してやり直したいって訳じゃないんでしょ」

 明日美はぴしゃりと言い放った。その冷たさも今の充にとってはありがたいものだった。これ以上何も話すことはない。明日美の『ここで話は御仕舞い』という気遣いが充には丁度良いタイミングでもあった。

「明日美は何でもお見通しみたいだね。なんでこう、すぐ判っちゃうんだろう」

 ぬるくなり始めたコーヒーをすすり、充は二本目の煙草に火をつけた。

「何年あっちー見てると思ってるのよ。それでなくても充は判り易い性格してるしね。アタシにも一本くれる?」

 テーブルに置いてある充のゼブンスターに手を伸ばしながら明日美は言った。

「彼女と付き合うために辞めたはずの煙草に手を出して、挙句、洗いざらい明日美に話すことまで明日美は判ってたんだ」

「残念ながら読心術は使えないわ、いくら女王様でもね。まぁ充君が元々強い人間じゃないことなんてとっくの昔に知ってたから」

 充からライターを受け取り、煙草に火を灯すと明日美は豪快にむせた。

「なんでこんなもの好んで吸うのかしらね。信じられないわ。百害あって一利なし」

「無理なら止めとけばいいのに。お体に触りますぞ、女王陛下」

「彼女との思い出を燃やし尽くしてあげようという女王様の心遣いが理解できない訳?充君は」

 むせて目に涙を浮かべながらも明日美はそう言った。

「なんだか良くは判らないけど、そいつはどうもありがとう」

 腹に腕を当て、紳士の礼をしながら充は笑った。随分前から気がかりではあった。何人かの友人にも言われたこともあった。

『明日美はお前に惚れてるんだよ』

 ただ、今それを持ち出す時期ではないと思う。充は恋人と別れたばかりだ。その明日美の想いに何となく気付いたのは、もう三、四年も前のことになる。ずっと無視できるものならしておきたかったのかもしれない。女として見ることが難しいだとか、そういうことではないと思う。明日美とは『仲間』でありたかった。そういうことなのだろう。そんな気持ちのせいか、明日美がはっきりと想いを充に伝えてこないせいか、充は明日美に明確な態度を示すこともできないままだった。ありていに言えば、明日美は充に近すぎる存在だったのだ。

 考えていることがめちゃくちゃだ。自分の中で齟齬だらけの矛盾した考えが整理できないまま渦巻いている。酷く言い訳じみた考えばかりが浮かんできていることに気付き、充は思考を断ち切るように残ったコーヒーを一気に飲み干した。

 そんな充を見て明日美はまた豪快に噎せ返った。


 喫茶店を出た二人は帰路についたが、明日美は帰りも土手を歩いて行こう、と言い出した。江戸川の河川敷は鮮やかなオレンジ色に染まっていた。遠くに渡っている橋梁の上を走る車が時折太陽の光を反射させる。その光に目を細めながら充は空を見上げた。反射の光を促す太陽の眩しさも一日の役目を終えようとしている。

 久しぶりの休日も御仕舞いだということだ。明日美と話したことで意外にも実のある一日になったと思える。

「ありがとう、明日美。随分楽になった気がするよ」

 ポケットに手を突っ込み、空を見上げたまま充はそう言った。

「……いつになくヘコんでた訳だねぇ、あっちー」

 明日美は歩みを止めてしばし充の顔を見ていたが、それもほんの少しの間で、すぐに充に習って空を見た。

「自覚は、してなかったけどね」

「自覚ないのが一番やばいのよ、フツーは。確信犯は確信犯で問題アリだけど、あっちーの場合、話術は巧みでも内面はそんなに器用でもないしね」

 空も土手も夕焼けに染まっている。フィルタを通した世界の中にいるようで、充は知らず安堵の溜息を漏らしていた。一人ではどうしようもないことがある。そして自分には様々な友人がいて、とりわけ明日美はその中でも特別な存在なのだ。これから先、明日美をそういう目で見られるようになるかどうかは判らない。

 ただ、自分に近しいものが明日美にはあり、自分と対極的な位置にいるのもまた明日美なのだ。

 今の充にはそれで十分だった。

 ふわり、と風が吹いた。

『今私たちの間を通った風はどこへ行くんだろうね』

 最後に言った彼女の言葉が充の中に蘇ってくる。充はその言葉を復唱するように呟いた。

「今ボクらの間に流れていった風はどこへ行くんだろう」

 空から風に飛ばされる蒲公英の種子に視線を落として、充は明日美の言葉を待った。

『また、ボクらの傍らを通り過ぎるよ。なにごともなかったようにね』

 充は彼女にそう答えた。淋しいけれどそれもまた一つの真実なのだろうと思えたから。

 そうして別れた。しばしの沈黙の後、明日美は不意に口を開いた。

「知ったこっちゃないわ」

 予想外の明日美の答えに充は驚いて明日美を見た。

「知らないの?明日は明日の風が吹くもんなのよ」

 そしてその明日は美しい。それが私、この明日美様の名前の由来ね、ちなみに。と自慢気に胸を張ってみせる。

「明日美らしいよ」

 充は笑顔になってそう言った。それもまた一つの真実なのだ。あのときにこう答えられたなら、どれだけ良かっただろう。笑顔で別れることができたかもしれない。

 今となっては残された一つの現実を直視するしかない訳だが、明日美のような答えを言ったところで、またその後の現実のみを見つめるしかないのだ。

 考えても詮無きことではある。

 風の中で戯れる蒲公英の種子もいつかは土に根を降ろす。今はまだ風に流されていてもいい時期なのだ。

「焦ることなんかないのよ。なにごともね」

 それは自分自身に言い聞かせているような言葉でもあった。今こうしながらも充への想いを押し留めているのなら、明日美は強い。

 好きな男が恋人と別れ、しかも既に見切りをつけているとなれば、今は絶好のチャンスだと普通ならば考えるだろう。しかし充の知る限り、明日美という女はどれほど充のことを想っていたとしてもそれをやらない女だ。それも逆に考えれば、自己犠牲以外のなにものでもない。自らの気持ちを押し殺し、相手を思いやるということは誰にでもできることではないが、それでは明日美の気持ちはどこへ向かえば良いのだろう。

 今の充の中にその答えはない。

 何よりも今はその明日美の気遣いが、自己犠牲であったとしてもありがたく感じてしまうのだから。結局明日美もまだ蒲公英の花ではなく、種子のままなのかもしれない。

 充にも明日美にも、誰にでも平等に時間は流れている。望む、望まざるに関わらずいつかは土に根を降ろす時が来る。過ぎ去った時を思うより、忘れた方が良いこともある。そう充は思うことにした。いつか風がなくなり、土に根を降ろすときまで、幾度も同じようなことを繰り返すのだろう。

 大切な何かをなくして行くのだろう。その度に充は、たった今、この瞬間のように空を見上げ、風を感じ、オレンジ色を思い出しながら、何かを忘れようとするのだろう。

「そうだね」

 穏やかな声が自然と出てきた。

 明日美に感謝しなければいけないな、と思いつつ、充はセブンスターの箱を握りつぶし、遠い河川に向かって放り投げた。

 明日美はそんな充を見ると、神妙な顔で大きなくしゃみをした。


 別れは必然でもなんでもなかった。

 しかし充の傲慢なまでの思い込みが招いたことだった、とも言い切れはしない。それもまた傲慢だ。お互いが距離を開けていたのではなく、充が立ち止まり、彼女は先を行き過ぎた。

 そんな簡単な結末さえ、今まで判らずにいた。

 仕方のなかったことなのかもしれないが、必然とは違う。もどかしい結末だったと思うのはきっと充一人だけなのだろう。他人から見れば、一組のカップルが破局を迎えただけの些末で、それは日常では珍しくも何ともないできごとなのだ。そして時がたてば充自身、特別に感慨にふけることもなくなってしまう、些末ごとの一つとなってしまうのかもしれないことだ。人を好きになり、想い合うということは特別なことで、それは確かに間違いはないと思う。しかし、それを特別以上に感じ、それが相手の足枷になってしまえば、それは終わって当たり前のことなのだろう。忘れて行くのは良いことなのかもしれないが、全てを忘れてしまってはいけない。

 そういうことなのだろう。


 今日もまた充は空を見上げる。昔からの癖だと言ってもいい。

 何かあれば、充は空を見上げる。

 嬉しいこと。

 哀しいこと。

 楽しいこと。

 今の自分の心を空に反映させて、充は何かを得ようとしているのかもしれない。

 ただ、何故空を見上げてばかりいるのか。そう問われれば今ははっきりと答えることができる。

「知ったことじゃないね」


 蒲公英 終り

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