第28話「似てる人がいるのですね②」

<前書き>

 遅れてしまって申し訳ないです。 3週後の大学院試験へ向けて色々と始めたので少し投稿頻度減るかもしれません。7月中旬には終わっているのでまた毎日投稿などなど再開できるかと思うのでよろしくお願いします! それと、前回の最後を少しだけ書き換えました。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 俺の妹はこれでもかと言わんばかりに頬を赤くして動揺していた。


 あれだけ兄のことをおちょくっていたはずの妹がまるで他人かと思わせるほどに。その様子が少し面白く思ったものの、俺自身も嬉しそうに笑う氷波先輩の表情から目が離せなかった。


 無論、その言葉のままに。釘付けになっていた。いや、はりつけにされたと言ってもいいかもしれない。

 

 足が地面を離れない。

 ふっと沸いた感覚が強烈すぎて、妹の背中を見ることしかできなくて。まるで自分がその世界を三者視点で覗いているような感覚。


 そんな風にして、立ち止まっている俺を妹を連れて行った先輩は不安そうに俺のほうまで歩いてきて声をかけてきた。


「あの……藤宮君っ。どうかしましたか?」


「っえ、あっいやその……な、なんでも、ないですっ」


 さすがにその声に体が覚めて、ハッとする。慌てて言葉を返して、見てみれば先輩は頭を傾げて再び目を合わせてくる。


 変わらないこの瞳。

 変わらなく、そして美しく、宝石のように照り輝く碧色の瞳。入学式を出遅れたあの日からずっと見てきたその眼が俺を見つめている。


 なんで、こんな虜になっているんだろうと感じながらもひたすら俺も見つめ返して。


 こんなの初めて先輩を見た日みたいで。あまりにも異質すぎる横顔を見た日と同じようで。


 胸にぽっかり穴が開いた気分だった。

 そして、それが引き金となったのか。




「……綺麗」




 今まで、わかっても決して口には出して来なかった言葉が揺れた心のせいか自然と言葉にしてしまっていた。


 気が付けば、目の前に立っている先輩かのじょは口を半開きで固まっていて、頬がゆったりと赤くなっていく。それこそ、冷徹姫とは程遠くて、恋する乙女のような反応だった。


 なんて、目では捉えられていた先輩の反応とは裏腹に、俺の頭は真っ白。どうして口に出ていたのか分からなくて、口ごもってしまう。


 数秒程何も出てこなくて焦って、大きな声を出してしまう。


「っあ……えと!」


 その声に驚いて先輩の肩がピクリと揺れる。その反応を見て、胸がドキドキと動悸を激しくさせる。


「つぉ、その……えっと……べ、別にそうじゃないっていうか……あぁ、そうじゃないってわけでもなくて……そ、そうは思ってるんですけど……な、なんか勝手にって言うか……な、何が何だか分からなくて、いつ、いつの間にか……なんか言ってしまっていて」


 焦ってしまって噛んで噛んでしまって仕方がない。

 目の前で真っ赤になっている綺麗な顔を見て余計に胸が痛い。


 どうして、こんな焦ってるのか自分でもよく分からない。


 そんな風に俯瞰してみている自分もいるような気がして仕方がない。しかし、焦る俺を制止するのは目の前にいる真っ赤な顔をした先輩だった。


「……ふ、ふじ、みやくんっ……は、初めて……だね」

「えっ」


 急な発言。

 口元を半分だけ隠しながら、もじもじと視線を合わせず恥ずかしそうに呟く姿。


「は、初めて……?」

「う、うん。だって……その、今までそういうこと、言われてこなかったですから」

「あ、いや……それは、まぁ」

「まぁ……とは、なんでなんです?」

「……り、理由があったわけじゃないです……別に。本当に、ただ、タイミングがなかっただけで……」

「そう、だったんですね……」


 儚げそうに尋ねてくる先輩の顔が少し晴れたように、ほっと肩を撫で降ろした。


「もしかして、その……言われたかったんですか?」

「っ——そ、そういうわけでは、決してないですけど」

「けど?」

「い、いじわる……です」

「いや、その……無理に聞いてるわけではないですっ」

「……いつも、言われてることが言われなかったから……心配だっただけです」


 羞恥心しかない表情が何とも言えなくて、何も言い返せないでいると先輩の背中の方から声が聞こえる。


「——お兄ちゃん、ナンパは外でしてよ!!」


 夏鈴のおちょくるような発言が耳に入って、ボアっと音がしたかのように顔が熱くなる。


 俺も先輩も雰囲気をぶち壊す言葉に、拍子抜けしたように肩がぴくッと反応していて、たまらず言い返していた。


「んがっ——な、何言ってんだ⁉」

「お兄ちゃん! 早く勉強するんじゃないの!」

「う、うるせ! ……分かってるって!」

「うるさくないし!! 鼻の下伸ばしてるのわかってるよ、私は!!」

「や、やめろって!!」


 あのブラコン妹。

 自分だってドキドキしてたじゃねえか。何が鼻の下伸ばしてるだっての。


「あ、あいつ……くそぉ」


 正気に戻って、靴を脱ぎ、先輩の背中を歩いてリビングの方へ。

 

「……っふふ」


 すると、なぜか先輩が肩を揺らしてクスリと笑っているのが目に入る。

 リビングまで残り数メートル、先輩の声が聞こえるか聞こえないかの声量で面白そうに笑みを溢していた。


「せ、先輩?」

「あっいや……ごめんなさいっ」

「な、何か……おかしいこと言ってました?」

「いえ、別にっ……その、ただ」


「ただ?」


 訊ねる俺に対して先輩はワンテンポ遅れて、振り返って嬉しそうに呟いた。


「似ている人がいるのですね……と、思ってしまって」

「似ている……ひと?」

「はいっ……なんか、好きになりました」

「えっ」

「友達として……好きです」


 行ったり来たり、その発言に俺の心は右往左往してしまっていた。







 


 


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