第23話「勉強会しませんか?」
LINE
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樹:夜中にすみません。定期試験前に一度、勉強教えてくれませんか?
19:20 既読
氷波冬香:勉強ですか? いいですよ。明日とか学校終わりなら大丈夫ですけど。学校だとあれですよね。でしたら、私の家なら空いているのでぜひ。
19:30
樹:家ですか⁉
19:31 既読
氷波冬香:はい。ダメでしたか? それなら学校のどこかでも。
19:32
樹:大丈夫です。お願いします!
19:35 既読
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「うがああああああああああああ!!!」
文面だけでも伝わるだろう俺の心情。
そう、俺は明日。氷波先輩の家に勉強会とは言えどお邪魔することになっているのだ。
「くそぉ。どうしよう。まじでお菓子とかしっかり買ってかないとだめだよなぁ。ていうか女子の家とかまじで小学校ぶりとかじゃないのか? 俺やっていけるのか? マジで集中して勉強できると思えねえよ!」
うん、やっぱりあいつの話に乗らないほうがよかったのかもしれない。
まぁ、今更取り消すなんてことできないけどな!
それも今日。
高校に行き、二人で帰ったことを尚也に話してからのこと。
「いやぁ、さすがだな。やりおるな、俺の親友は。さすがださすが。誇らしく思うまである」
教室の後ろのほうの席で前後に並ぶ俺と尚也。
先輩は生徒会室でご飯を食べるとメッセージをくれて、俺は尚也とご飯を食べることにしたのだが席をくっつける尚也が何か自慢げに呟いてくる。
「何回、さすがって言うんだよ」
「いやなぁ。根暗根暗って馬鹿にされてたお前が半ば強引なデートから特に理由なく一緒に帰るとは……感動だよぉ」
「いや普通に前からたまにだけど、帰ってたろ」
「あれ、そうだったっけ?」
「うん。そうだよ。勉強してるしてないの話の時とかもな」
「ほう。俺の見ないうちにいつの間にか進んでるのか」
「……進んでいるって言っていいのかはわからんけど」
自分で言ったところでこの前の透けたワイシャツの先輩が頭に浮かんできて、取り払うために少し頭を搔いた。
そんな俺を見ながら何か企んでいるのか不敵な笑みを浮かべて呟いた。
「ははーーん。そうか、一時は破局とか騒がれてたけど……なんだかんだ、そっちにシフトチェンジしたんだな?」
「シフトチェンジ? 何がだ?」
真面目にわかっていない俺に対して、尚也はちっちと腹立つジェスチャーをしながら、ぐぐっと近づいて言ってくる。
「—―な、なんだよ。いきなり」
「いやな、分かるだろ?」
「わ、わからんて。いきなりそんなこと言われても」
「だって、最近の樹の行動考え直してみないか? そしたら分かると思うけど」
俺の最近の行動を見直す?
一体全体何を言っているんだか。別に大したことしているわけじゃないだろうに。
別に最近は家から帰って勉強して、たまに来る先輩とのラインにおどおどして、学校に行ったらこうやって尚也にいじめられて……特に何も変わってはいない。
「わからん」
「わかれ。思い返してみろって。入学式は先輩を救うためにこれなくなるし、先輩はそれにあやかって樹とよく昼休みどっか行くし、かと思えばお礼のためと先輩と樹でデートに行っちゃうし、かと思えば最近二人で相合傘して帰ったと。やることやってるじゃねえかよ」
そう思えば確かにそうだけど……でもそれが何にシフトチェンジしたんだって話だ。
「いや待て、相合傘したとは言ってないんだが?」
「あぁ、それは普通に先輩から聞いた。なんかたまたまサッカー部の先輩が樹と一緒に帰ってるのを見たって言ってた」
「……み、見られてたのか」
「そして、あの男吹っ飛ばすって言ってた」
「……そ、それは頼むからやめてって言ってくれないか?」
「うーん。それはちょっとどうしようかな」
「くっ、た、頼むっ。今度何かおごってやるから!」
「仕方ないな~~」
と、ニタニタと笑いながら弁当を開ける。
そういえばと俺も弁当を開けながら、話が変わっていることに気づいて聞き返した。
「—―で、それで、何がシフトチェンジだって?」
「あぁ、樹が先輩を狙い始めてるんだなってな」
「へぇ、先輩を……って、ん?」
俺が、先輩を、狙い始めてる?
「いやいや、何言ってんだよ。俺が狙ってるって?」
「うん。だっていつも一緒じゃん? それに、友達って言うには仲良すぎるようにも見えるしな?」
「……いやいや、てか俺は先輩のこと――」
否定するつもりで言おうとしたが、そこではてと口が固まって動かなかった。
先輩のことが好き。つまり、尚也は俺に対してそう言おうとしていたことになる。
いやいや。
別に俺と先輩はそういう仲じゃない。
今更命を助けたとかつまらないことは言わないけど。
ただ、それがきっかけで仲良くなっただけだ。
別にそういう気持ちはあるわけではない――――そう、だと俺は思っている。
そのはずだ。
そのはずだよな。
たかだか一緒に帰ったとかその程度で人のこと好きになるなんて……そんな童貞みたいなこと。
俺は童貞だったけど。
うん。童貞だけど。
俺は……どうなんだ?
先輩のことを、どう思っているんだ?
表向きはすごく冷静で、冷徹で、落ち着いていて、才色兼備で何でもできる何でも知っているような完璧超人で、でも裏では知らないことばかりで、意外とおどおどしていて、でも楽しいときにはふとした素敵な笑顔を見せる。
彼女のことは少なくとも知っているほうだと思う。
でも、それが好きという気持ちにつながるものなのか?
「……おい、急にしゃべるのやめるなよ。てか顔赤いぞ?」
「え、まじで⁉」
急いで顔を手で覆うと目の前の尚也がくすくすと肩を震わせてこぼれ笑みを流す。
「おい、なんだよ」
「いやぁ……わかりやすいなって思ってなぁ。まじでそうなんだって」
「は、話を進めるなよ勝手に! 別に俺は好きだとは言ってない」
「へぇ……あ、ドアに先輩が」
「え?」
パッと顔を扉のほうに向けるもそこに姿はなかった。
気のせいじゃんかと言いかけようとすると、尚也は先にも増す勢いで笑いだす。
「っ――ほ、ほら」
「ち、違う! これは普通に驚くって! 普通にさ」
「普通にねぇ、果たしてそうなのかなぁ?」
「お、おちょくるのやめろ。俺のメンタルが弱いの知ってるだろ。そういうこと言われると意識するんだよ」
「甘いねぇ~^俺にもそんな時期があったわ」
正直、そんなのは想像できないけどな。
「でも、そうだな。もしあれなら勉強と教えてもらうのとかもありなのかもな? ていうか、なんなら俺も行っていいか?」
「なんで尚也も来るんだよ。行くなら俺だけだろ」
「先輩は俺だけのものだと」
「そんなことは言ってねえ!」
「はははは!!!」
「まぁでも。せっかくなら、教えてもらえよ? 俺も宿題とかぎりぎりにやるときになったら色々と役に立つし?」
「それは自分でやってくれ」
「えぇ~~いいじゃん。心の友だろぉ?」
まるでどこぞの巨人みたいだ。
小額からずっとこの調子の尚也に今更、怒ったりはしないけど。
「まぁでも、ほらさ。試験前のゴールデンウィークとか、もう来週だろ? 樹を誘うおうと思ってたけど、せっかくなら先輩も誘いたいんじゃないのか?」
「ゴールデンウィークか……もう、そんな時期なのか」
「あぁ」
「でも、迷惑じゃないか? 先輩、一人だけって」
「それは樹が決めてくれよ。もしかしたらそういうことに参加したいかもよ? てか、それなら俺よりも樹のほうが知ってるんじゃないのか?」
――と、そんな感じでおかしな方向に話が進んだのである。
もちろん、尚也のほうは半分冗談で言っていただろうし、何か強要するようなことはなかったが帰ってからだった。
この話が同様に動揺を呼び、なぜだか自分の中で口実となって固まって、いつの間にか勉強を頼んでいた。
これを機に、せっかくなら話を聞くだけ聞いてみようと、そう思っていた。
「……んで、どう頼めばいいんだ。口実、作るのむずくないか?」
今更、今更だ。
「いっそのこと妹にでも聞いちゃうか?」
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