第16話「パシリにされた気分だよ」


 時刻は午後三時。


 反省会が始まってから約二時間後、俺はなぜだかエコバックを持たされて徒歩五分の場所にあるスーパーにやってきていた。


 本当に、なぜ俺がそんな場所にいるのかと聞かれたら俺が一番聞きたいくらいだ。今日って反省会しに来たんじゃないのか? ってな。


 まぁ、理由はあるけど。


 お菓子をすべて食べきった尚也が夏鈴を呼び出し、そしたら今度は夏鈴がシャンプーとリンスがないから買おうかなって思っててと言い出し、そしたら尚也が俺を指さして千円だけ渡してきて、夏鈴に「おごりだぜ」とカッコつける始末。


 もちろん、おごりはいらないと断って自分の財布から千円を取り出してやってきたのだが、言っておくが俺はパシリでも何でもないんだぞ。


「って……とか言って、二人を置いてスーパーに来てる俺が言えることではないけどもさ」


 こういうところでも自分のヘタレさがにじみ出て自分が嫌になる。


 昨日の氷波先輩とのデートでもそうだったけど、エスコートできてはいなかったし、結局ゲームセンターとファミレスと地下街を少し回ったくらいで時間になってしまって、事前に調べていたところには行けなかった。


 そういう雰囲気でもなかったからと言い訳はいくらでもできるけど、そんなタイミングなんて自分で作り出してこそで、尚也ならそうしていたとも思う。


 俺がそれについて少し話したら、氷波先輩は否定してくれたがそれは優しいからであって、きっと本心ではないはずだ。


「もっとこう……我を強く出すべきなのかぁ」


「—―あ」


 肩をだらんと落として、ふと頭に浮かんできたことを呟くとまるで鈴を転がしたかのような声が背後から聞こえてきた。


 ここ最近で聞きなれた声ではあるものの、今俺は学校にいるわけではないし、ましては昨日みたいにデートの約束をしているわけでもなかった。


 声だけで正体はなんとなく察しがついていたが振り返るとそこには俺と全く同じように困惑した顔を浮かべている氷波先輩が立っていた。


 噂をしたらなんとやらで、彼女の手にはスーパーのかごが提げられていて、中には牛乳と夕飯の材料だろうか、カレーのルーとじゃがいもとにんじん、そして角切りにされた豚肉が入っていた。


 まさに、買い出しに来ていたら偶然会ってしまったという感じだろう。


「っどうして、先輩がこんなところに」

「それは私のセリフです。藤宮くんこそどうしてこんなところにいるんですか」


 少し軽くなった声色で尋ねてくる先輩の手にはメモの紙が握られていて、、しっかり忘れないように書いているところは几帳面でらしいなとも思ってしまう。


「あっと……そんの、おつかい頼まれてまして、ふらっと」

「おつかいなんですか?」

「まぁ、どっちかというとパシリなのかもしれません。尚也—―て、あれですね、友達がお菓子を買って来いって言われて、ついでに妹からもシャンプーとリンスを頼まれまして」

「ふふふっ……使いっパシリにされてるんですね」


 話を聞くや否や我慢できなさそうに笑みをこぼす先輩。

 俺は真面目にパシリにされて嫌なのに、まったくだ。ただ、俺で笑ってくれているのならポイント高いのかな。


 そんな風に考えていると先輩はかつおだし、と透明感のある声で呟いていた。


「かつおだしは確かこっちにありますよ」

「え、あ、ありがとうございますっ」

「……カレーにかつおだしって入れるものなんですね」

「隠し味ですね。入れる人は入れると思いますよ?」


 そう言いながら、一番安いスーパーの自社ブランドのかつおだしを手に取る。


「しっかりと節約するんですね」

「……私はみんなが思っているほどお姫様じゃないですからね」


 少し不満そうにつぶやく姿を見せて、隣の棚に陳列されていた一キロの塩をじろじろと見つめだした。


「大特価60円……一家族様につき一袋まで」


 大きな紙一枚に描かれている言葉を読んですぐに俺のほうを見つめてくるので答えた。


「もしかして、買ったほうがいいですかね?」

「は、話が分かる人でうれしいです」

「あはははっ。まぁ、さすがにそんな顔で見られたら誰でもわかりますよ」

「わ、わかりませんよ……こんな姿、ほかの人なら見せませんし」


 意味ありげに俯いて言われて、俺は内心ドキッとした。

 え、今なんて? と。俺以外にはこんな姿見せないよってことは――と頭の中の乙女な俺が叫んでいたがすぐに続けて言った。


「みんな私に幻想ばかり追い求めてきますし……その点、藤宮君は私のことを一人の人として見てくれますから」

「え、あぁ……そうですよねっ」

「優しいですね。私にしっかり話しかけに来てくれるのは藤宮君くらいです」

「たまたまですよ。俺だってあの日助けなかったら絶対に話してませんし」

「助けに来てくれたことが優しいんです。私、驚きながら見てたんですよ? 呆然と、のほほんとして見つめてくる通行人の中で必死な顔で走ってくる姿を」

「……たまたまですよ」


 さすがに褒めちぎってくるおかげで恥ずかしくなって視線を反らしながら否定すると、ぼそっと呟いてきた。


「(そんなわけないじゃないですか)」



「—―え、なんて?」


 聞き取れなくて聞き返すも少しいたずらな表情を浮かべて言ってきた。


「秘密ですっ」

「えぇ……」

「はい。ひとまず、私の買い物は終わりましたので藤宮君のも買いましょう?」


 そう言って、俺の手を引いて、何も言えずに従うしかなかった。







 

 いろいろと買って部屋に戻ると、尚也が一言呟いた。


「樹、なんか顔色いいけど何かあったのか?」

「—―別に尚也には関係ないよ」

「っちぇ~~」


 俺、顔色いいのかよ。

 先輩のこと、意識しすぎだろ。





<あとがき>

 明日、用事があるので更新できないかもしれません。申し訳ございません!

 皆さん、GW楽しんでください!

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