第15話「デートはどうだったんだ?①」
慌てながら平謝りしてくる先輩をなんとか説得して、その後、俺の見たかった映画に付き合ってもらうことで一日が終わることになった。
帰り際、地下鉄で先に降りる先輩が何か言おうとして俺を見つめてきたが結局何を言ったのかはドアが閉まる音で聞き取れなくて、若干もやもやが残る。
だが、明日からは赤の他人。
本来、俺とは巡り合うわけもなかったのだから、これ以上付き合う必要もないのだ。
そして、翌日。
残っている週末を謳歌しようと思っている俺のもとに厄介な奴がやってきた。
「お邪魔~~」
デートが終わったことを聞きつけて尚也が菓子を片手にやってきたのだが、いつも通りのジト目にニタニタと笑みを返してきた。
「いやぁ、久々だな~~その嫌そうな眼つきも多少丸くなったんじゃないか?」
「昨日の今日だろ。それにお邪魔なら帰ってくれないか? 俺は来週の小テスト勉強で忙しいんだよ」
「またまた。いつから樹は勉強するような人間になったんだ~? 受験勉強でもう一生勉強はしないって言ってただろ」
「うるせーよ。言っておくけど、なんのおもてなしもできないからな」
「ははっ。俺はデートの結果が聞けたらそれだけでいいからな」
ふざけて笑う尚也をリビングを通って自分の部屋まで案内する。正直、尚也はもう百回近く俺の家に来ているだろうし、なれたことだろう。
途中、妹の夏鈴がお菓子を渡されてものすごく喜んでいて、尚也の女子を懐柔する技術は我ながら凄いと思う。
「お前、彼女もいるのによくもまぁほかの女と話せるよな?」
「は? 別にいいじゃん、だめなの?」
「いや、だめでもないけど……単純にふしぎっつーか。なんというか」
普通にすごい。
というよりも、俺がおかしいのかなとさえ疑ってしまうほどに馴れ馴れしく話す
俺なんて、一人で精一杯でいろいろと疲れたっていうのに。
と、ひとりで迷いながら考えていると隣から顔を覗かれる。
「まさか……あんなにも、綺麗な人とデートまで行っておいて、俺に嫉妬?」
「んなわけあるかよ!」
なんだよ、こいつは。まったく。
俺は普通に、いたって真面目に悩んでるんだぞ。何が嫉妬だよ、馬鹿。
「いやぁ~~、だって最初は彼女作って友達も多少は作りたいって俺にだけ希望とかいう無理難題な夢を言ってたじゃんか?」
「あれはあれ、これはこれだ。それに、そこそこ作りたいだけでたくさん作れるとも作りたいとも思ってないからな?」
そんなことも言っていたなと思い出しながらあくまでも違うと反論する。
よく考えてみれば、あれは事故を起こす前で高校生になれば何か変わると思っていたから言ってたんだ。正直、あの一週間からいろいろとありすぎて心が追いついていないし、そして俺がヘタレで役に立たないんだということにも気づけた。
今はもう、今ある関係の中でやっていきたいと心境が変わっている。
そんな真面目な俺の心境とは裏腹に、尚也はくだらなそうに「ふーん」と呟く。
「まぁ、そりゃそうか」
「なんかむかつくな、その納得してる顔」
「いやぁ、だってそうだろ?」
「そうだけどなぁ……くそ、言い返せないけどむかつくなぁ」
「はははっ! まぁまぁ、長い付き合いなんだから俺にはこう、嘘なんてつくなよな?」
「尚也……お前なぁ……」
バシバシと肩を叩いてくる尚也。
痛いし、うざいし、昨日の今日でいろいろあって疲れてうざいと思ってるのにそれが妙に体に染みついているというか、馴染んでいるせいで落ち着いてしまっている俺もいてちょっと余計に腹立った。
「まぁでも……そうか。今日は一応俺のために来てくれたんだよな?」
「う~ん。半分そうかな。もう半分はただの知的好奇心だけど」
少しだけ素直になると返事をしてくれたのだが、いらない言葉を付け足した。
普通に言うのよね、そうやって。
まぁ、いいんだけども。
「—―あとは、普通に気になるじゃん? 親友が久しぶりに恋愛してるのがさ?」
「久しぶり……かぁ」
「はいはい。終わったことは思い出さない。今はとにかく、あの美少女で完璧な最強の先輩だろっ」
「……はぁ。とか言って俺の失敗してる恋愛話が聞きたいだけなんだろ?」
「その通り!」
その満面の笑みが俺の心に深く突き刺さって解けていく。
そう、思い出せば――そんなこともあったなと思い出しながら、そんな俺の横で尚也は俺の部屋の扉を開けた。
「よし、それじゃあ昨日の反省会でもしますかね!」
俺の睨みにも全く屈さず、入るや否やベッドに飛び乗って、いつも通りの定位置に座り、昨日の話し合いが始まったのであった。
PS:回想編も入れたいのでいったんここまでにします! 遅れてすみません!
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