第12話「冷徹姫とUFOキャッチャー」


 街中を歩けば人人人、そんな一般市民に紛れて俺と氷波先輩も歩いていく。

 そう、俺も彼女もただの高校生であり、ただの男女。


 そんな風に思って普通に歩いているつもりだったのだが……現実はそう甘くなかった。


 甘くないっていう言い方は変だったかもしれないが、あまり考えていなかったことがある。


 今まで気にしていなかった人からの視線だ。

 普段から外に行くときもスウェットとによくわからないTシャツで外に出るような俺が浴びるはずもなかった視線の凄さを知ることになった。


 そう、彼女と歩くと視線を大きく買うのだ。

 どこを歩いていてもすれ違う人から視線を向けられる。


 かわいいくらいならそこら辺にもあふれているし、多少目が合うのも普通なのかもしれないが格が違った。


 出る杭は打たれるとは言うけど、彼女ほど綺麗すぎると男女関係なく目を引いて普通に生活ができるのかというレベルなもので衝撃がすごい。


 むしろ、ここまでの魅力を持っていて、容姿も綺麗でえげつないのに、尚也に教えてもらうまで認知していなかった自分が少し情けないくらいだ。


 趣味が人間観察なんて言えたものじゃない。

 これからはややアニメ見ることが趣味にしなくては嘘になってしまう。


 緊張感のすさまじさと、一歩歩くごとにプレッシャーを感じるのはこれが初めてだ。


 これが有名人。

 これが超絶美人な人の生活。


 正直、俺が隣にいていいのかすら疑問を感じている。


「……いやぁ、すごいっすね」


 ぽろっと本音が漏れると隣を歩いていた氷波先輩が俺の顔を少し見つめてきた。頭一個分小さい先輩から向けられる上目遣いな視線はちょっとむずがゆく感じたが、すぐに前を見て苦笑いを浮かべて呟いた。


「……もう、私は慣れましたね」

「俺は絶対慣れませんよ。こんなの……氷波先輩は生徒会やってるから余裕かもしれませんけど」

「別に余裕ってわけじゃありませんよ? 私だって守られたいプライベートがありますっ」


 ふんっ――と鼻を鳴らして胸を張る。

 制服を着ている時とは違う、意外と大きな胸が余計に視線を集める。


「それはすみませんっ。余裕そうだったのでてっきり」

「私だって人間なんですから。当たり前です。まぁ……体験すると驚きですよね」

「はい……俺が隣にいていいのかって思いますよ」

「別に私が好きでいるわけですから、当然ですよ?」

「そういうわけじゃないですけど……ほら、その」


「?」


 少し間を開けて、目線の行き場を失いつつ呟いた。


「デートって思われてるのかなって」



 その瞬間。

 隣を歩いていたはずの先輩の姿が急に視界から消えて、振り返ると数メートル後ろで背筋をピンとさせながら立ち止まっていた。


 その表情を見るや否や、俺も今何を言っていたのかを悟った。


 何も考えずに発言していたものだから先輩の顔を見て一気に血の気が引いていくのが分かる。


 あ、今おかしなこと言ったよな俺。


 いくら恩人になったからとはいえ、さすがにそれは言い過ぎた。デートじゃない、付き添いだ。あくまでも俺と先輩はそういう関係性ではない。


 俺もそんなよこしまな思いを抱いてはいない。


「あ、いやっ! 別にそういうことを言いたかったんじゃなくてっ……すみません。ただその、言葉の綾でして……」

「—―そ、そうですよね」

「はい……軽率すぎました」

「いえ、別にそこまでではないのであれですけど……単純に驚いたと言いますか。デートってまず、どんなのものなのかも知らなかったので……」

「見ようによれば今日のような感じですけど、今日はその――お礼として付き添ってもらってるので違いますねっ。あはは……」


 後頭部をポリポリと搔きながら誤魔化すように作り笑いを浮かべると、先輩は少し静かに「そうですね」と呟いた。


「じゃあ、行きましょうか」

「はいっ」


 気を付けて物事言わないと勘違いさせちゃうよな。

 


 


 ☆☆☆




 札幌駅前オブジェから歩くこと5分ほど。駅前商業ビル「ESTA」に入った。数年後には新幹線開通のために無くなることにされているのだが活気あふれるビルで、中にはお菓子スイーツのお店から、電気屋、そして洋服屋など数多くのお店が出展されている。


 ゲームセンターはそこの九階にあり、エスカレーターで乗って登っていくと徐々に聞こえてくるゲームセンターの騒音に氷波先輩は少し驚いていた。


 エスカレーターで、彼女の前に乗る俺の袖をツンツンと引っ張り恐る恐るといった様子で呟く。


「あ、あのっ。これはその、なんの音でしょうか?」

「あぁ、これはゲームの音ですよ」

「ゲームの音ってこんなにうるさいものなのですか?」

「たくさんあるんですよ。音ゲーからシミュレーションゲーム、体を動かすようなゲームに、アーケードゲームまで。100台以上置かれているので音はすごいですね」

「え、100台ですか⁉」

「ワンフロア全部ですから、そりゃそうですよ」

「……初耳です。てっきり、コンビニくらいのサイズかと」


 いやいや、と否定しかけたが服の袖を掴むその目は本気そのもの。最初からゲームセンターを知らない顔をしていてわかってはいたが本当に知らないところを見るとやっぱりなんだなと感心する。


 俺とは全く住む世界も知っている世界も違う人はこうも違う感想を抱くのかと。


 そんな風に考えている彼女を背中に、九階まで登りきるとその目は点を通り越して無くなっていた。


 もはや何を考えているのか分からなかったが自然と胸に収束していく両手が胸の内を物語っていて、数秒ほど固まっていると彼女の口から出されたのはたったの一言だった。


「—―っすごいです」


 感動と感嘆をこれ以上の言葉で送り出せない。

 成績も優秀で頭もいい人が出す感想としてはチープなものだったがそれが逆に心情の揺さぶりを物語っていた。


 それに、単純に顔を赤くして、鼻息を荒くしている冷徹姫がただ単純にかわいかった。


「はははっ。なんかそんな顔で驚いてくれるのは新鮮でうれしいですね」

「お、驚いていると言いますか……単純にびっくりというか」

「いや、それは驚いているっていうんじゃ?」


 そう突っ込みを入れると、興奮しているのか立ち止まっていた体を回転させて周りを見渡しつつも首を横に振る。


「驚くっていうのは意外なことに出くわしたときに、心に衝撃を覚えたっていう意味で使う言葉ですっ。私はその、一瞬衝撃を受けたのでびっくりしたんですっ!」

「え、意味違うんですか?」

「違いますよ! そりゃ……いや、やっぱり、驚くでもあってるかもしれません」


 一周して、一蹴して途端に自信を無くしたように呟きながら、途端に俺の袖を引っ張る先輩。


 指をさして、気になっていたのかお菓子がたくさん入っているUFOキャッチャーへ駆け出した。


「こ、これって、噂には聞いていたUFOキャッチャーっていうものですか⁉」

「そうですけど、知らないんですか?」

「名前は聞いたことがあったんですけど……実物は見たことなくて。なんかすごいです! ん、いやでも、UFOがありません! 名前にあるからてっきりUFOが入ってるのかと……」

「っ――」


 正直、これには俺も我慢できなかった。

 先輩の常識知らずさというか、なんでそこに目が行くのか分からなくてくすっと噴出した。


 なんだよ、UFOがありませんって。

 そりゃそうだろ。と思いながらこらえられない笑いを溢していると先輩が「あのっ」と視線を向ける。


「ど、どうして笑うんですか!」

「ははっ。 いやぁ……UFOなんてあるわけないだろって。変なこと言ってるなって」

「……べ、別に変なことを言ってるわけでは」


 恥ずかしそうに否定するも、さすがに無理がある。

 しかしまぁ、これ以上笑うのはかわいそうだったので財布から100円を取り出して、尋ねた。


「—―氷波先輩、やりますか?」


 すると、先輩はもちろんと目を輝かせて首を思いっきり縦に振った。


「……やりたいです‼‼」


 いつの間にか、お礼のことなど忘れて俺と先輩はひたすらにUFOキャッチャーに励んでいたのだった。


 






PS:締め切りが……なんどもすみません!!!!

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