第9話「冷徹姫と約束しちゃった」

<前置き>

 0時投稿は無理でした。

 どうかお慈悲を。





<本編>



「—―ってわけで、烏目ちゃんにも協力してほしいんだけど。大丈夫そう?」

「私はオールおっけーだけど~~むしろ、本人が意気消沈してるけど大丈夫なの?」


 あれからあっという間に数日が経ち、ついに週末も目と鼻の先に待つ金曜日の夕方。高校のほうが終わり、俺は尚也とクラスメイトの女子と一緒に札幌駅前にやってきていた。


 ニタニタと笑いを抑えきれない殴りたくなるような親友はいつも通りだが、もう一人の女子は名前を烏目加奈子からすめかなこ。高校初日で尚也と一緒にいた委員会が一緒の女子生徒だ。


 茶髪のショートカットに朱色の瞳。

 背は小さめだが胸が大きく、面倒見がよさそうなお姉さんのような女子というと分かりやすいだろうか。

 風貌容姿からも明るさの塊で、俺とはま逆で尚也のような陽キャ中の陽キャでもある。


 実は二人とも、俺のクラスの学級委員長らしく、すでにクラスの中心メンバーにもなりつつあるのは言わずもがなだろう。


 あ、ちなみに俺は勝手に書記にさせられてました。尚也曰く「しゃべる必要ないし誰も立候補しなかったから代わりに推薦しといたわ~~」だと。


 しゃべる必要がないという配慮は認めるが、いないときに勝手に決めんじゃねえよ!


 ていうか、先生も緩すぎだろ!

 まぁ、正直初対面で察したけど。ほんわかしてて数学の先生のわりにぽわーって感じだった。普通によく授業に遅刻してくるし、ていうか「これはみんなでやっておいてね~~」と自由奔放に指導するし。


 今更決まってしまったことにとやかく言っても仕方ないのは分かっているがこの学校のいいところが悪く出てしまっている。


 —―と熱く、内心では思っているが今の俺にはそんなことで尚也と争っていられるほど心の余裕はない。


 理由はもちろん知っているだろう。


 原因はまさに4日前の昼休み。


 とあることが理由で、入学式をすっぽかしてやや浮いた状態で初登校を決めた俺のもとに再び現れたのがこの学校では超が付くほど有名な氷波冬香ひなみふゆかという一つ上の先輩だった。


『っ――あの、藤宮樹くんはいますでしょうか?』


 響き渡る声が教室全体を震撼させる。

 教室の端でだんまりを決め込んでいる生徒も、勉強や読書に励んでいる生徒も、加えて新しい友達との会話を楽しんでいる生徒も。


 皆すべてが手を止めて俺のほうを向いた。

 まぁ、無理もない。そりゃそうだ。

 この場合、有名女優に話しかけられるレベルと言っても過言はないのだ。


 氷波冬香はかなりの有名人で、超が付くほどの美人。銀髪碧眼の完璧美人、冷徹姫という2つ名もあり、生徒会長として学校の顔でもある常に第一線級の活躍をしている人が彼女でもある。


 そして、そんな有名人でもあり美人な人に入学早々話しかけられた人は俺以外いるわけもない。先輩たちですら捕まえられないような人間がなんでもないただの一年生の名前を呼んでいる。


 あまりに浮いている俺と先輩。そんな状況を加味して場所を移し替えられ、いろいろと話をして、何を血迷ったか言ってしまったのだ。


「一日だけ付き合ってくれませんか?」と。


 週末の土曜日。

 つまり明日の11時からあの氷波冬香先輩との二人っきりのデートが待っているからである。


 まさに大ピンチ。


 女子とのまともな会話すらできない俺がいきなりデートに行こうなど至極無理難題。


 だからこそ、この二人に協力してもらっているわけである。


「やっぱりだいじょばなそうだね、いつき君」

「あははっ。これはいつものことだから気にしないでいいぞ。こいつ、ヘタレで根暗だからな」


「おい、今ナイーブなんだぞっ。追い打ちかけるんじゃねえよ。んなこと俺が一番わかってるんだ……」


「てな感じでね?」

「わーお」


 まるで料理番組の実演シーンのように紹介する二人。

 正直今すぐ殴ってやりたい気分だが落ち着け俺。まず、二人に協力を頼んだのは俺なのだ。何を着ていくべきなのか、何をしたら女子は喜んでくれるのか。その辺の観点を今日は勉強するべく来てもらったというのが俺の思い。


 しかし、とうの二人はというと――それを建前に遊びに来ている。


「まぁまぁ、今日はパーッと遊んで明日は適当に行こうよ! ほら、思い悩んでも意味ないでしょ?」

「それだと俺に明日爆死しろって言ってるも同義じゃないかな?」

「だって、実際そうじゃない? このヘタレは明日になっても直らないだろうしさ?」

「……ぐうの音も出ない」


 真面目にその通りではある。

 痛いところついてくるなこの人。明るくていい人っぽいお姉ちゃん感出てるけど、もしかして結構腹黒な人なのかな?


 落ち込んでる俺の顔を見ながら、烏目さんは続けて呟く。


「結局はその人次第なんだよ?」

「そうなのか?」


 なんとなくは理解できても、尋ねるとぺこりとうなずいた。


「私の好きなもの、特殊かもしれないっていうこともありうる」

「それはまぁ……」


 すると、横から尚也も呟いた。


「だいたい、あの人すごそうで俺も話せないからな?」


 そんな言葉にくっつくほどに近い距離で立っていた烏目さんがさっと声音を変えてジト目を向けた。


「尚也君が話せないのは相当だけど……もしかして、私って安く見られてる?」

「逆だよ逆。氷波先輩が高すぎるって話」

「……なんか腑に落ちないんだけど? 私も可愛いと思わない?」

「オーラがない!」

「後でぶん殴るね」


 急に漫才を始める二人。

 一体全体どうすればいいのか、迷ってる人の前でマジでむかつくが矛を収める。


「それでまぁ、一応協力はするけど私にあまり気にしないでね?」

「気にします。それに、難しいことではなくて女子としての常識を知りたかったっていうか。ほら、その、女心って難しいじゃないですか」

「……女心。っずいぶん深くまで考えるんだね?」

「まぁ、それが樹って男だからな。いいところでもあり、悪いところでもある!」

「確かにね。私はそういうの気にしてくれるのは好きだよ?」

「……別にうれしがらないですよ?」

「かぁ~~~~~~~! ガードが堅いね、いつき君!」

「はぁ」

「とにかくさ、洋服とかは選んであげるけどカラオケとかで遊んであとはパーッと高校生楽しまないと!」

「おぉ!!」



 そうして、走っていく二人。

 俺は不安を抱えながら、その日を楽しく満喫することになった。


 




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