第6話
失神した男二人を『日陰の影通り』へと放り投げて来た。あそこであれば余所者はカモでしかないし、それが簀巻きで失神ともなれば鴨が葱と調味料と鍋を持ってきたぐらいにはしゃぶりつくされるだろう。解放してくれるような人も居る筈はなく、最低でも今日一日は身動きが取れなくなる筈だ。
「急ぐよ、ちと時間を使いすぎた」
太陽も沈み表通りには街灯の明かりが灯り始めている。襲撃者の集合時間まで後一時間半。
「結局どうするの? また騙し討ちをする?」
「いや、無理だろう。集合場所に本来いるべき奴が居なくてアタシ様達が居たらどうなる?」
「ん~……裏のお仕事っぽいからまず他人って時点で警戒対象かな?」
「そういうこと、だから姿を見せるのは無しで」
「了解、じゃあ別の手で」
二人は相談しながらも裏路地を走り抜ける。本来であれば夜目が無ければ走り抜けるのは厳しいだろうが少女達はリカント。その小さな体躯を獣へと変貌させる。どんな闇でも見通す暗視を手に入れ、獣として闇を駆けていく。
時刻は二十時。賑やかな表通りや酒場と違い、静まり返る。ここは壊れた魔動機の処分場。中にはギリギリ稼働するものもあるかもしれないがいつ暴走したり、爆発したりするかは判らぬガラクタの山。まだ稼働しているのか、点滅を繰り返す魔動機の街灯が辺りを照らしては消え、消えては照らす。
そんな誰も近寄らないような廃棄場に二人分の足音が響く。闇夜に紛れるかのような漆黒の外套を纏った二人組。片方は杖を、片方は二本の厚い湾刀を携えている。自分の武器に手をかけ、足取りはまっすぐ壊れかけの街灯へと向かう。二人の視線は街灯の下に置かれた『緑のパンダナ』へと向けられる。
「……面倒な」
小さな溜息が聞こえたかと思えば男は『緑のパンダナ』を勢い良く
【チッ、読まれちまったか】
闇夜の中から
「おや、リカント語。と言う事はターゲットのご友人ですかね?」
後方に構えた男は杖に魔力を纏わせながら、こちらに注意を払う。
【答える義理はないよ、おにーさん達はお仲間と一緒に眠ってもらうんだから】
狸の唸り声に呼応するように湾刀の男も
「やはり奴等はやられたか……おい、喜べ。俺達の報酬が増えるぞ。」
「ええ、でも彼は最後に仕事をしたようですし少しぐらい彼の報酬を出しても良いのでは?」
シアンとルナルド達を無視するかのように二人組は報酬の話を始める。だが、少女達は動けない。談笑をしながらもその眼は確実に此方を捉え、一部の隙も見えないのだから。
【はっ、奴ならベラベラとアタシ様達にこの場所を教えてくれたクソッタレだったよ?】
「ああ、アイツにしては良い仕事をしたな」
【……どういうこと?】
湾刀の男はくるくると緑のパンダナを弄ぶように回しながら
「俺達は
「ええ、彼の杜撰な管理では不安が残りますので」
【……通りでペラペラと喋ってくれやがったわけか。】
罠にハメたつもりがハメられていたのだ。『緑のパンダナ』が仲間へと異常事態を知らせるサインとなる。不意をつけなくなれば真っ向勝負となり、そうなれば分が悪いのはルナルドとシアンと踏んだ上での策だろう。
【シアン、一回退いて立て直すよ」
【了解、手筈通りに】
「依頼を知られた奴を逃すとでも?」
男達の重心が僅かに前へと偏る。背を見せればその背を切られかねない。
【厄介だね、
ルナルドの声に焦りの色が滲む。相手がリカント語を知らなければいくらでも作戦を伝えれる。相手がこちらに油断していれば罠にかける事もできる。
ただ、そのどちらもが既に潰されている。
「大人しく投降してください。そうすれば一日だけ大人しくしてもらって後は解放しますので」
【こりゃキツイねぇ、アタシ様等の作戦は筒抜け、可憐で可愛い少女のフリはもうできない】
諦めたかのように街灯に手を突き、溜息を吐く。
【ただ、】
ルナルドは拳を握る。
【手が無いとは一言も言ってねぇ!!】
その拳は壊れかけた街灯へと振り下ろされ、戦いの火蓋が切って落とされた。
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