壊れたオルゴール
藤泉都理
壊れたオルゴール
壊れたオルゴールに封印された。
勇者が魔王によって。
このオルゴールを直せたら封印は解ける。
声高々な笑いと共に出発地点に転移された勇者は誰も居なくなった実家の自室で、オルゴールが直せる者の登場を待った。
一部のドラムや振動弁がへこんだり外れたりしている所為で、何を奏でているのかわからない曲を途切れ途切れゆっくりと流し続けながら。
このままずっと壊れた音を流し続けるのか。
勇者はぼんやりそう思うと同時に、いつしかこの曲は何だろうかと疑問を抱いた。
どうせ奏でる事しかできないのだ。
思考を止めたら、死と同義。
ならば、今はこの曲の正体を模索し続ける事で生きよう。
決意したら、少しだけ眼前が明るくなった。
と思ったら。
本当に明るくなっていたらしい。
竜巻でも発生したのか。
壁や天井がなくなり、眩い日光がなにものにも遮られる事なく注がれる中。
どこかで見た事がある男が眼前に立っていた。
「いやー遅くなった遅くなった。もー、世代交代させるって本当に面倒で面倒で~。途中で挫けそうになったけど、ぼく、頑張ったよ。約束したもんね。勇者と一緒に旅をしたいから迎えに行くって。安全なオルゴールで待っていてって」
羊を連想させるもこもこの白い髪がぶわりと広がったかと思えば、オルゴールの壊れた部分が瞬く間に修復されて、そして、壊れていない曲が流れた。
男、魔王の鼻歌で、どちらにせよ、綺麗な音だとは思えなかったが、不思議と元気の出る曲であり、勇者の記憶が一気に蘇った瞬間でもあった。
「あちゃー。月日が経ってたから壊れちゃったかー。でもまあ、いいか」
「いや。俺が直す。いいだろ」
人間の姿に戻っていた勇者は魔王が持っていた見るも無残なオルゴールを受け取った。
「え?直してほしいなら、ぼくが頑張って直すけど」
「いや。俺が直す。直して、ちょっとだけ壊れた状態で、おまえをこのオルゴールに封印してやる」
「遅くなったの、怒ってる?」
「違う。おまえと旅をしてもいいかと思わせた当てつけだ」
「本当に封印しないよね?せっかく自由になったのに!」
「少なくとも俺が封印されていた月日と同程度はな」
「やだやだ!」
「安心しろ。置き去りにはしないで旅には一緒に連れて行ってやる」
「やだやだ!」
「ほら、行くぞ」
「やだやだ封印しないって言ってくれないとヤダ!」
「なら置いていく」
「っばーかゆーしゃー!!!」
「ばーか。もう俺は勇者じゃねえ」
おまえと一緒で、ただの旅人だ。
壊れたオルゴール 藤泉都理 @fujitori
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