第5話 ハイカロリー・ノーフューチャー

 悲報‼️

 前の私、アン・ロッゾが、全く‼️何も‼️知らされていなかった件‼️


 「うわ、えげつないことするなぁ」と、ユリが呟く。

 「?」

 「これ、魔眼。」

 自ら指差し説明するには、彼女の目は『魔眼』だそうだ。

 魔力の流れや色が見え、単純に視力もいい。

 1キロ先の石が見える、どこかの先住民並みの能力だ。

 で、そんなユリ曰く、

 「アンとデブ兄貴の魔力が繋がっている」、と。


 あ、ちなみに兄は家には上げていない。

 意識のない150キロを、樹上の家に担ぎ上げるのはハード過ぎる。

 兄は地面に転がしておいて、私達は家の中だ。


 「魔道具じゃないかな?」と、ユリが言った。

 兄は私から魔力を盗んでいる。

 考えれば全てが繋がった。

 

 この世界では、『太る』ことが権力の象徴だ。余裕の体現だ。

 だから、太った貴族が安心して子を産めるように、えらく片寄った魔法が発展した。

 そこから考えれば、彼らの健康を守るべき新たな魔法が開発されていても、不思議は無いのである。


 アン・ロッゾは魔力が強い。

 だから、

 「公爵家の出来損ない」と追い詰めて、反抗心を奪う。

 手放す気が無いから、嫁にはやらない。

 婚約者は作らない。

 あとは、少しずつ魔力をかすめ取り、自分達の健康維持に使うだけだ。

 奴隷かよ‼️と思ったが、ボケの突っ込み、ちっとも笑えないよ。

 

 「なんか、この子が可哀そうになってきたよ。」

 呟きに、

 「何が?」と、ユリ。

 「この子、アップルパイに顔突っ込んで死んでた。夜中、1人で。」

 「ギャグマンガかよ‼」

 反射で突っ込んで、けれど苦し気に顔を歪める。

 「くそ、笑えねえ」、と。

 ユリは共感性が高い。

 要は優しいから、ずっとコンビで仲良しだった。

 12歳なんてまだ子供だ。

 ずっと愛されたかっただろう。

 悲しくて、必死で太ろうとしていたんだ。

 公爵家の一員と認められたくて。

 

 「前世も今世も、家族には恵まれないな。」

 ついつい愚痴が口をつく。

 と、

 「アン‼」と大声がして、ドスンドスンと地響きがする。

 直後から、我が『トム・ソーヤの家』がある大樹がギシギシ悲鳴を上げた。

 ……

 兄が気が付いたらしい。


 「アン‼なぜ出て行った‼お前のような出来損ないを愛せるのは、家族だけだぞ‼」

 うん。まだその設定で行くんだ?

 巨体を揺らして、1度出入り口で閊えて、強引に入ってきた兄だった。

 「うわっ……」

 心底うんざりとした顔でため息をつくユリと、

 「お久しぶりです、お兄様。では」と、彼の腕に触れる私。

 瞬間兄は転移した(空間魔法)。

 『ご自分の体調管理はご自分で。私は公爵家には関わりません』と伝言を添えて(音魔法)。


 一瞬で振出しに戻った(家の庭に転移したよ)兄は叫んだそうだ。

 「くそう‼このままじゃ‼」

 一瞬でかすみだした目。

 魔道具には使用出来る範囲があり、妹の隠れ家に近づくほど体調が回復した。

 20歳にして、彼も糖尿病の合併症が出始めている。

 年齢を重ねている父と母はもっとひどい。

 動くこともままならない。 

 このままだと誰もいなくなる(正しい意味で)。 

 公爵家は、終わりそうだった。

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