第6話 ノーカロリー・ハイリターン

 一方、

 「また誰か来た」と、魔眼を発動させたユリ。

 「またうちの家?」

 「いや……方向が違う。北の方……」

 北と言えば、隣国との国境だ。

 公爵家の北の森がそのまま国境になっていて、魔物の蔓延る広い土地が鉄壁の防御となっている。

 まったく何もしていない。

 食べてばかりの公爵家は、所謂『辺境伯』の代わりでもあった。

 つまり隣国から誰か来たと言うことで、すなわち、不法侵入だ。

 

 「ねえ、ユリ。」

 「ん?」

 「その魔眼、木こりの家なら役に立ったでしょ?」

 「……まあね。」

 「で、盗み食いで追い出される、ね?」

 「盗み食いなんてしちゃいねえよ、この子は。やったのはすぐ上の兄姉、双子の3男と4女だ。」

 この時点でつまり8人兄弟。すごいな。

 「今頃困ってりゃいいさ。私がいなけれりゃ迫る魔物にも気付けない。依頼主の欲しい木材だって、足で探すしかなくなる。」

 「馬鹿だね、まったく。」

 「ああ、馬鹿だ。」

 お互い、家族には恵まれない。


 「じゃ、ちょっと見てこようか?」

 「ああ。」

 「転移。」

 敢えてわかりやすく声に出し、森の北にユリごと転移。

 北の森上空数10メートルに浮かぶ(浮遊魔法)私達の前に、ちょっとした阿鼻叫喚が広がっていた。


 隣国は攻める機会をうかがっていた。

 贅沢し遊び惚けるだけの国は目に余り、それはつまり、そうするだけの地力があることを示す。

 実はロッゾ公爵家のある国は非常に豊かで、貴重な鉱石が産出される上農業にも適していた。

 けれど、守りはザル(贅を尽くすことのみに夢中だから)。

 なら攻めるしかない。

 しかし森に阻まれ、魔物に阻まれるから、今回は森を焼き払う作戦で来た。

 魔法使いをかき集め、北から森を焼いていく。

 ちなみにここ隣国では、魔法は普通に攻防一体、ある意味想像通りの発展をしていた。

 だからこそのこの惨状‼

 魔物たちは逃げ惑い、木々は焼かれて倒れていく。


 「あーっ‼私の食料を‼」

 いきなり食料呼ばわりする私に、

 「そこに愛はあるのか?」と、突っ込むユリ。

 「魔法使いメインだからかな?全軍で3000人もないよ。」

 「わかった‼ならば‼」

 異世界名物、魔法はイメージ、魔法は物理。

 物理の法則を無視しない方が、魔法は大きな効果を生む。

 ここに見せよう、究極魔法。

 「オールカロリー・オールリターン‼」

 「は?」

 謎のセリフに呆気にとられるユリ。

 私は彼らが殺したすべての魔物(万を超える)、焼き払ったすべての木々をカロリーに変え、3000人に等分したのだ。

 結果……

 「いやぁ‼」

 「私の体が‼」

 「服がぁ‼」

 女性メインの魔法使い、全ての服がはじけ飛んだ。

 けれど目の毒には絶対ならない。

 全員体重3桁いった。コロコロ、ダルダルのぜい肉まみれだ。

 そのぜい肉は、絶対食用には適さない(だって臭いし)ゴブリン製だぞ、ざまあみろ。

 騎士は、鎧がコルセットみたいになった。

 頭が兜から抜けなくなって、大騒ぎする彼らもダルダルの『要精密検査』な肉体。

 ダメージ極大。

 いや、病気とかはすぐには出ない。

 けど。

 心のダメージがマックスのさらに上だ。


 「うわ……あんた、前世のうっ憤ぶつけてない?」と呟く、ユリの横顔を見ていた。

 特製カ〇リミットファンケルで、今は標準体型になったユリ。

 黒髪黒目でキレイ系の大人びた顔。

 背は、前世と同じでかなり高い。

 痩せぎすじゃないから、スタイルもいいな、この野郎。

 Dカップとかありそうだ。

 「ユリ、あんた何歳?」

 「33だよ、同い年じゃん。」

 「違う、今は?」

 「ああ。確か14歳。」

 つまり、2歳年上か。

 あと2年で、私の体、ちゃんとメリハリ出るんだろうか?

 「まあ、でも……」

 「?」

 「芸人は無理そうだね、これじゃ。」

 「???」

 「アイドルじゃないんだし。」

 最初と違う意味の阿鼻叫喚を見下ろしながら、

 「芸人やるつもりだったんかーい‼」の大声が響いた。

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