Ⅱ 興味津々

 幼女はルナというらしい。一応俺も自己紹介をしておいた。


「シゲル……シゲル、いい名前ね!」


 どこがどういいのかはさっぱり分からないが、そんなルナとの夜の町巡りは続いた。


 初めは、甘いものでも食べさせてやれば満足するだろうと思い、コンビニでアイスを買ったのだが、これがまずかった。どうもコイツは世間知らずらしく、コンビニへの道や明るい店内、様々な商品にルナの好奇心は上がる一方で、あれもこれもと説明を要求された。


 その後も、見かけた猫を追いかけようだとか、街灯は何で光っているのだろうとかで散々俺は振り回された。そして、その度にルナは言うのだった。


「すごいわ! シゲルは何でも知っているのね」


 ルナの言葉はあまりに純粋で、俺は少し照れ臭かった。誰だって知っていることを言っているだけだ。それなのにコイツは、まるで俺が世界一の物知りみたいに誉めてくれる。


「お前を見ていると、佳奈が小さかった頃を思い出すよ」

「カナ……? それは、誰かしら?」

「俺の5歳下の妹だよ。今は遠くに行っちまったけどな」


 小さかった佳奈も、あれはなに、とよく聞いてくる子だった。俺はそんな妹を少し五月蠅く感じて、半ば適当に答えていた。けれど、そんな俺に佳奈はいつも言った。


すごい! お兄ちゃんは世界一のものしりだね。


 俺はふと夜空を見上げた。あいつ、今頃どうしてんのかな。こんなことなら、もっと色んな事をやっておけばよかったな。


「シゲルは、カナの事が大切なのね」

「ま、そうだな。連絡は取れないけど、元気でやってることを願ってるよ」

「……兄妹の間に愛があるなんて、素敵ね」


 そう言ったルナは俯いていた。まだ出会って数時間だが、こんなに元気がないコイツは初めて見た。俺はそんな様子を見るのが嫌で、いつもの調子に戻って欲しくて言った。


「ほら、もう満足したのか? 俺は帰っちまうぞ」


 すると、ルナは俺を見上げて笑った。銀髪が、深夜の風になびく。


「ダメよ。私が満足するには、まだ全然足りないんだから」


 よかった。元気を取り戻してくれたみたいだ。そんなことが気になるのはきっと、佳奈のことを思い出したからだろう。俺は佳奈に、今も笑っていてほしいんだ。

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