スーパームーンの日に出会った幼女が俺から離れない

レクト

Ⅰ 出会い

「でけーなあ」


 深夜の公園に立ち、一際明るい月を見上げた俺の率直な感想がこれだった。


「今日スーパームーンなんだって」

「知ってる。地球と月が一番近づく日でしょ」

「それだけじゃないんだよ。スーパームーンの日に月に願いをかけると、願い事が叶うんだって!」


 昼間に聞き耳を立てた女子高生の会話を思い出す。


「願い事? 嘘くせー」


 時刻は午前0時になろうとしていた。俺は飲みかけのコーヒー缶を、近くのベンチに適当に置き、叫んだ。


「もし本当に願いが叶うってんなら、異国のお姫様とかとお忍びでデートしてみてえ~!!!」


 カチッ


 公園の時計が0時を示したとたん、あたりが眩い光に包まれた。


「なんだ……?」


 眩しさに目を細めながら見つめると、光はたちまち粒となり、光の粒が公園の一か所に集まって何かを形作っていた。


 ――キインッ


 一瞬、高い音が鳴り、光の集合体がはじけて消えた。公園は夜の静けさを取り戻した……が、一か所、先程と異なることがあった。


――光が晴れた場所に、銀髪の幼女が立っていたのだ。


「何だったんだ……?」


 っていうかあのガキ誰だ。さっきまでは、いなかったよな。子どもがこんな時間にうろついていいと思ってんのか?


 視線に気づいたのか、幼女はこちらに歩いてきた。そして、俺の前で小さな手を腰に当てて言った。


「はじめまして、地球のヒト。第1327代目の月の姫であるこの私に会えるなんて、とても幸運ね」

「……は?」


 何言ってんだコイツ。そうか、さてはさっきの俺の叫びを聞いていたな? 異国の姫とデートしたいとかいう。それでからかおうって算段か。


「月とか馬鹿な事言ってんじゃねー。大体、俺が願ったお姫様はもっと可憐な女性だ! お前みたいな乳臭いガキじゃねーよ!」

「失礼ね! 私のどこを見て言ってるのよ!」


 目の前の幼女は自分の体をぺたぺたと触り、首を傾げた。


「変ね……。光の量が足りなかったのかしら」


 小さい手が何度も体を行ったり来たりしたあと、今度は俺の体を触り始めた。子どもの掌をぺたりと押し付けられ、服の上からもその感触が伝わってくる。


「とにかく、お前はもう帰れ。こんな所にいていいはずないだろ」

「嫌よ、帰らないわ! 今日しか、今夜だけしかないの! 明日になったらまた離れていってしまうのよ」


 幼女は手を握り締めて叫んだ。と、その視線がベンチの上に移動する。


「これは何かしら?」

「あ? ……缶コーヒーだけど」

「どうやって遊ぶの?」

「遊ぶんじゃねえ、飲みモンだよ」


 幼女はスチール缶を手に取り、しげしげと眺めた後、くぴっと飲んだ。


「うぅ……苦いわ。嘘をついたわね」

「ついてねーよ! ったく……いい加減帰ってくれよ」


 俺の態度が嫌だったのか、幼女はあからさまにふてくされていた。


「ふん。そんなに帰って欲しいのね。でも私は、満足するまで帰らないわ」

「満足すれば帰ってくれるんだな……?」

「まあ、そういうコトね」

「なら俺がお前を満足させて家に帰してやる!」


 そうでもしないと俺が通報されるのも時間の問題なんだよ! なんでコイツ、俺から離れねえんだ……?

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