第2話 鈴凛と瑠璃の話
荒廃した町の中、安定しない屋根の上を走る青年がいた。黒い長髪を一つにまとめた、瑠璃色の瞳をした青年、
「……ねぇ、瑠璃」
「どうしたの? リンちゃ。そんなしょぼくれて」
「……陰はちぃちゃんのこと嫌いなのかな?」
「ん〜? う〜ん、どうかな? いいコンビだとは思うけど」
「……仲良くして欲しいのにな……」
「仕方ないよ。陰もチカゲちゃんも、色々と過去を持ってる。それはみんな一緒だよ。複雑だからね」
そう言うと、瑠璃は屋根に開いた大きな穴を飛び越えた。着地の時に機械義足が音を出す。
「……瑠璃、また整備してないでしょ」
「……バレた?」
「ダメだよ。また壊すよ」
「いやぁ……壊してもリンちゃが直してくれるからさ……」
「次壊したらもう作らないよ」
「そ、それは困る……」
「無茶しないでよ、馬鹿」
「ごめんなさい……」
「あ、いたよ」
鈴凛が下を指差すと、白いローブを着た男が歩いていた。
「プシュケの人」
「目撃されてた人? 一人だね。まぁいいや。よっ!」
瑠璃が屋根から飛び降りて、男の前に着地する。それとともに、鈴凛を背中から下ろした。
「こんにちは〜。ちょっと話聞きたいんだけど、いいかな?」
瑠璃が声をかけると、男は脱兎の如く逃げ出した。
「逃さないよ」
瑠璃が男を追いかけ走り出し、その背中に飛び回し蹴りを繰り出す。その瞬間、どこからか現れた猛者が男を庇って飛び出した。瑠璃は舌打ちをすると、機械義足の仕込み刃で猛者の頭を蹴り飛ばす。瑠璃が男を追いかけようとすると、至るところから猛者が現れ襲いかかった。
「瑠璃!」
鈴凛の声に瑠璃が振り返ると、鈴凛の背中の機械が大きなマシンガンに組み上がり、猛者たちを狙っていた。瑠璃が銃の軌道から避ける。
その瞬間、マシンガンが猛者に銃弾を浴びせ、猛者たちに無数の穴が開いた。
バタバタと倒れていく猛者に、瑠璃が逃げる男を追いかける。大きく跳躍して男の前に着地すると、男が踵を返して逃げようとしたが、鈴凛の銃が男の足に穴を開けた。
「ぐああっ‼︎」
男がその場に倒れ、瑠璃がニコニコと笑いながら男に近づいた。
「大人しくしてくれてたら、こんなことしなかったのに」
「っ‼︎ リンネの異端者め‼︎」
「はいはい、そうですよ〜。さて、プシュケの人は、死ぬのが何よりも怖いんでしょ? 大人しく話してくれたら、殺さない……かも?」
「ふざけるなっ‼︎」
「まぁまぁ、そう言わず。ね?」
スタスタと歩いてきた鈴凛が、瑠璃の後ろで銃を構える。男の口から小さく悲鳴が漏れた。
「じゃあ、出血死する前に素直に答えてね。最近のプシュケの襲撃、目的はなに? プシュケは戦争をしたいわけ?」
男は押し黙り、瑠璃が顔をしかめる。すると突然、男は狂ったように笑い出した。
「貴様らは本当に愚かな者だ‼︎ プシュケに死など存在しない‼︎」
「はぁ?」
「教祖様はこの世界から死をなくした‼︎ 不老不死は実現する‼︎ 教祖様と死、無き世界に栄光あれ‼︎」
「⁈ リンちゃ‼︎」
瑠璃が男の首元で光る何かに気がついて、咄嗟に叫ぶ。その瞬間、男の首の爆弾が爆発した。
舞い上がる爆風。鈴凛はとっさに鈴凛を庇った瑠璃に抱きしめられていた。瑠璃の背中は爆風を受けて大きな火傷になり、血が滲んでいる。
「……る……り……」
瑠璃は鈴凛をそっと離し、その顔に笑顔を浮かべた。
「大丈夫? リンちゃ、怪我してない?」
「……瑠璃、背中……」
「ん?あぁ、平気。それよりもリンちゃが怪我しなくてよかった」
「……手当てする」
鈴凛が瑠璃の背中に手を伸ばし、瑠璃がその手を止めた。
「大丈夫だよ。鈴凛の手が汚れるし、こんなの、足ぶっ飛んだ時と比べたら全然マシ」
「いいから‼」
大きく声を張り上げた鈴凛に、瑠璃が驚いて動きを止める。鈴凛は泣きそうな顔をして、体は小さく震えていた。
「……なんで、いつも無茶ばっかりするの? 瑠璃も陰もちぃちゃんも、自分のこと、全然大切にしない。痛い癖に、馬鹿みたい」
「リンちゃ……」
瑠璃が鈴凛を抱き寄せて、その背中を優しくさする。
「リンちゃは優しいね。でもね、リンちゃ。リンちゃはまだ小さい女の子で、誰かに守られないといけないんだよ。それに、これは僕の罰なんだから」
「……だったら、私も罰が欲しい」
「リンちゃはもう十分だよ」
そう言うと、瑠璃は鈴凛の小さな体を抱き上げた。マシンガンは変形し、もとの機械に戻って鈴凛の背中におさまった。
「自分で歩く」
「いいの。足場不安定だし。暴れちゃダメだよ」
瑠璃は鈴凛を抱いたまま走り出した。
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