華麗なる階段
料理がまったくできない私。最後に包丁を握ったのは、えっとたしか高校、いや中学か?家庭科の調理実習のときに…何作ったんだっけ?――――そうそう、カレーだ、カレー。
次の日、仕事帰りに最寄りの駅前にあるスーパーで買い物をしたあと、近所の米穀店に寄った。いまでは少なくなった個人商店のお米屋さんだ。お米はスーパーにもあるが、なんとなくお米屋さんで売ってるもののほうがおいしそうに思える。腕に自信が無いから、素材の力に助けてもらおう。
産地もいろいろ、種類もいろいろで、よくわからないけれど、“コシヒカリ”ってのは聞いたことがある。“魚沼産”てのも。よし、それにしよ。
で、量はどうしようかな。二キロ、五キロ、十キロ…。多いほうが、もちろんお得なんだけど…。
――――せっかくの炊飯器、これからも活用するために十キロいっとくか。よいしょっと。
(おっも……)
めっちゃ重いけど、まあすぐだしね。
「これ、ください」
「いらっしゃい。持って帰るかい?」
「はい」
「じゃあこれ、サービスだよ」
「え」
「ありがとね~」
「……………………」
ねえ。おじさん。
十キロ持って帰るって、知ってるよね?
私、そんなに力持ちキャラに見えた?――――たしかにちょっと背は高いけど。
店の出入口に大きな文字で、『お持ち帰りのお客様には粗品プレゼント!』と書かれたポスターが貼られていた。
店側の心遣い、なんだろう……。
これで炊いて、よりおいしく食べてねという気持ちを込めて、とかさ。…そうかもしれないけれど。かもしれないけれど、ね、この…………………、
“おいしい水”。
十キロの米を持って帰る客に、二リットルの水をあげないでほしい。合計十二キロよ?死ぬほど要らない。
「はあ。はあ」
うちまで近いから、まだ助かった――――のに、まさかの……
『工事中のため、ご利用できません』の立て札。ブルーシートに覆われたエレベーターの前で立ち尽くす。
「う……うそぉ……」
朝は普通に使えていた、はず…………。
「あっ」
そういえば、いつだったか、管理会社から通知が来ていたの思い出した。
オートロックの扉横にも玄関ホールにも郵便受けの横の壁にも、工事のお知らせのポスターが貼られているのを、いまさらながら気がつく。
(忘れてた……)
エレベーターが使えないとなると、階段になる。
(階段で……?マジ?私、十階よ?)
米十キロと水二リットル、さらに追い打ちドン。ショック超特大。
******************
作中の『お米持ち帰りの人にお水プレゼント』ですが…。
昔、頂きました。はは、腕千切れそうでしたよ………。
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